04

有能すぎたのだ、名前は。鬼兵隊に入ってから一年弱で目を見張るほどの働きを見せた。先日も敵対組織を潰してみせ、高杉もますます気に入り傍に置くようになっている。それを客観的にみて不信感を抱いたのは万斉だった。プロデューサーつんぽとして活動する万斉が船に顔を出すのは一か月に数回。船の様子が名前を中心にして少しずつ変わっていくのが彼には手に取るようにわかっていた。彼女が前に属していた組織は有名ではない。彼女のあの技量があったら簡単に名を上げそうなものなのに。個人的に彼女の出自を調べていた万斉だが、どうも不審である。彼独特の勘が、何かを告げていた。

「名前殿。天人が違法に持ち込んでいる兵器について調べてもらいたいのだが」
「……噂になっているやつですよね。私も調べてみたのですけれども」

パソコンにつないだプリンターからデータを取り出し万斉に渡す。そこには兵器の詳細と地球に持ち込まれただろう日時、関係者の名前とデータがずらりと並んでいた。

「このミサイルの構造を見たら、わかると思うのですが…」
「細菌兵器として使えるな」
「ええ。それもかなり広範囲に……」
「ふむ」
「……万斉様?」
「この兵器を奪取したいと考えているのだが、今、どこにあるかは存じているか?」
「おそらく幕府が保管していると思うのですが」
「そうか」

もしやこれをテロに使う気かと名前は不安になった。万斉が言ったように細菌兵器として十分すぎる威力を発揮するだろう。少なくとも江戸を壊滅状態に追い込むことはできる。
無関係者を巻き込むテロは嫌いだ。不安げに万斉をみる名前に「そういえば晋助が呼んでいたぞ」と伝えた。
ひとつ気が付いたことがある。名前が来てから幕府関係への襲撃が減っているということだ。鬼兵隊の資金を増やし、敵対攘夷組織を潰すことに専念している傾向にある。

「あ、はい。行ってまいります」
「また頼む」

小走りで高杉の部屋に向かい、襖をあけると煙管をふかす高杉が待っていた。遅くなりました、と頭を下げると気にするなとでも言うように手を軽く振る。

「何かご用でしょうか」
「特に用ってことはないがなァ」
「はぁ」
「来い」

煙管を置き、近づいてきた名前の膝に自らの頭を置いた。膝枕である。それに目を白黒させたのは名前だ。

「そんな信用してもよろしいのですか?」
「あァ?」
「私が敵でしたら危険ですよ」
「そうだなァ」

紫煙の匂いが漂う部屋で高杉は静かに目を閉じた。万斉や武市の報告を聞いている。私が敵でしたら、ではない。名前はおそらくどこかの密偵だ。先日、船には乗っていない子飼いの部下に名前をつけさせてみたはいいものの、簡単に捲かれた。

「名前、お前さん、船問屋焼き討ち事件について調べてるそーじゃねェか」
「……はい」
「何故だ?」
「特に意味はありません」
「そーかィ」

そんなわけがないと高杉は胸中で笑う。名前はあの事件の生き残りだ。出自が京都というところまでは割れたが、そこからがつかめないという万斉に攘夷志士がかかわる事件での死人を漁らせたのは二日前。恐らく、船問屋焼き討ち事件の生き残りだろうと察しをつけている。

「いいこと教えてやろうか…名前」

高杉の髪を撫でるようにしていた名前の手を掴み、押し倒すようにして拘束する。目を覗き込むようにして彼女を見れば、その目は不安に揺れていた。

「その事件、黒幕は幕府だ」
「……え」
「自分で調べてみろ」

このまま手籠めにしてしまおうと着物の裾を割った高杉だったが、明らかに意識を他に向ける名前のせいで興が冷めた。考え込むようなそぶりを見せる彼女の頬を軽く叩き、自分に意識を向けさせる。困惑する名前に高杉は低く笑った。わかりやすすぎる。紗を剥がすように動揺した名前の仮面が外れていくのがわかるようだ。同時に確信した。名前は有能だが、場数を踏んでいなさすぎる。

「お前、幕府の密偵だろ」

耳元でそう囁けば、まさかと笑った名前は首を振った。ここで頷く馬鹿はいない。鬼兵隊には様々な密偵が送り込まれていたが、誰も生きて帰ってはこなかった。もちろん、名前も生かして返すつもりはなかった。

prev next
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -