05

その日のニュースは渋谷駅爆破テロのニュースで持ちきりだった。江戸は混乱に包まれており、病院はけが人で溢れかえっている。鬼兵隊によるテロとのテロップに銀時は憂鬱な表情を隠しきれなかった。ついにやらかしやがったか、と呟く。死者の数と重症者の数はテレビを見るたびに増えていた。もうすぐ日が沈む。そうなったら被害者の救出は難しくなるだろう。何もできない自分が歯がゆかった。神楽も新八も沈痛な面持ちでテレビを見る。夕焼けが、火の手によって鮮やかに染められているのを綺麗だと思える自分が嫌だった。


■ ■ ■


土方と近藤は幕府老中安藤に呼ばれていた。松平の上をいく重鎮。鬼兵隊のテロを食い止められなかったということで謹慎処分に処せられていた真選組だが、突然の呼び出しと共に謹慎も解かれた。老中の呼び出しに嫌な予感しかしない。松が描かれた襖が開くと、安藤ともう一人、両手に包帯を巻いた女がいた。

「わざわざすまないね……どうぞ、かけてくれ」
「はい」
「今日来てもらったのはお願いがあってね」

何がお願いだ、と土方は胸中でつぶやいた。近藤と土方に断れるわけがないのだ。楽にしてくれという安藤だがそう簡単にできるわけもなく正座も崩さぬまま、彼の言葉を待った。

「名前を真選組で預かってもらいたい」
「彼女を、ですか?」
「先日のテロで記憶喪失になってしまってな」

少し席を外しなさいと言われた名前は一礼して座敷から出て行った。残されたのは安藤、土方、近藤だ。安藤がため息をついた。

「あいつは私の子飼いの密偵でしてね。鬼兵隊に潜入させていたのだが……」
「……なるほど」
「記憶が無くては裏切ったのかどうかもわからぬ。それに名前は幕府にとっても鬼兵隊にとっても厄介なデータを持っていてね……」
「彼女を消せということですか?」
「いや、データだけで構わん。これ以上幕府に火の粉は浴びせられん」

受けてくれるかね、という安藤の言葉に二人は頷くことしかできなかった。女中に見送られて車に乗り込む。遠ざかる城に大量の溜息を付いた。

「トシ、つまりどういうことだ?」
「あの女は鬼兵隊への密偵だったが、事前にテロの情報をながさなかったから安藤様に疑われてんだよ」
「でも彼女もテロの被害者なんだろ?」
「ああ。恐らく密偵だとばれてテロと一緒に始末されかけたんだろう。で、あの女が生きてるってわかったら鬼兵隊は必ず消そうとする。囮に使えって魂胆だろ」
「そんな……」
「しかも幕府のやばい情報も持っているらしいからな。記憶が戻り次第、安藤様に報告ってわけだ」
「……」
「厄介なモン抱えることになりそうだ」

厄介事以外の何物でもない。爆破テロで幕府のメンツが丸つぶれになったからといって元密偵を囮に使うとは。明日には屯所に来るという彼女をどうしたものかと土方は唸った。隊士としては使えない。密偵としては使えるかもしれないが、常に目の届くところにおいておかなければならないことを考えると無理だ。女中として雇うか…

「トシ、そういえば小姓を欲しがっていなかったか?」
「あ?」
「書類が大変だとかで」
「おいおいまさか近藤さん…」
「俺の小姓でもいいんだがな、名前ちゃんもトシの小姓の方が喜びそうだ」
「待て待て待て」
「不服か?」
「……」
「ならいいじゃないか」

万が一裏切っていた場合のことを考えると近藤の小姓にはできない。自分の小姓にするか、と考えて再び憂鬱になった。せめて彼女が有能であることを祈ろう。屯所につくと沖田が出迎えにきていた。俺だけ仲間はすれでさァ、とむくれる沖田を近藤が宥める。

「総悟、山崎と各隊長を集めてこい」
「自分でやれよ」
「副長命令だコノヤロー」

やっぱり小姓は欲しいかもしれない。近藤にも頼まれて渋々呼びに行った沖田の背中を見て土方は再三の溜息を吐いた。数分で各隊長は部屋に集まり、土方は名前のことを簡潔に説明する。これは極秘事項だ。平隊士には幕府からのお目付けということで紹介すると言った土方に動揺の声が漏れた。山崎が挙手する。

「名前さんって、名字名前さんですか?」
「あ?あぁ確かそんな名字だった気が。なんでだ山崎」
「いや、数年前に幕府から預かってた子と同じ名前なんで……」
「預かってた?」
「潜入捜査を叩きこむんですよ」
「ああ、あれか」

微かな記憶をたどった。山崎が知っている人物ならやりやすい。彼に名前のことを調べてくるよう命じ、その日の会議はお開きになった。翌日、風呂敷と木刀を持って屯所の門をたたいた名前に隊士が歓喜したのは言うまでもなかった。

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