04

ハグをすると脳内でオキシトシンが分泌され、不安を解消させたりストレスを緩和させたりするらしい。
名前は、よくセラピーと称して抱擁を求めていた。
屋外だけど人目はないからと名前が思う存分に恵セラピーで充電を済ませた頃に虎杖と釘崎が戻ってきた。
「えっ、なにこれ?どうなってんの!?」
早速車の異変に気がついた釘崎が説明を求めるように名前を見た。
「私たちもさっき忘れ物取りに戻ってきて気がついたから、誰の仕業かわからなくて……伊地知さんに連絡してレッカーと代車は手配したんだけど時間かかりそう」
「はぁ!?帰れないじゃない!子供の悪戯だろうとタチ悪過ぎるわ。大人なら尚更よ。犯人見つけたらボコボコにしてやる!」
「釘崎、落ち着け」
怒りのあまり地団駄を踏む釘崎を伏黒が嗜めた。
さすがの虎杖も苦笑いを浮かべるしかなかった。まさかこんな事になっているとは思わなかった。
「とりあえず、神社行こ。村長さんの弟が待ってくれてるし」
「神社?」
「そう。今日、神社に泊めてくれるらしいから」
トランクを開けてくれとジェスチャーを受けた名前はスマートキーを押した。ピピッと電子音が鳴り、トランクが解錠された。

トランクを開けた虎杖は、釘崎のキャリーケースと自分と伏黒のボストンバックを外に出した。
名前も助手席から自分のボストンバックを取り出し、肩にかけた。
元々調査で2泊まではする予定だったためそこそこの大きさの荷物を積んでいた。
「持ちます」
「エッ、いいよ。大丈夫」
伏黒が荷物にかけようとした手を名前は押し返した。
「いいから」
「本当に大丈夫。私のことは気にしなくて良いよ」
先程とは一転した態度に伏黒はジト目を向けた。
そんな目で見られても困る。あんまり親密にしていると関係性を疑われそうだ。虎杖はともかく、釘崎はそういうことに敏感そうな気もするし、今も押し問答をする伏黒と見比べられてる気がする。
「本当にだいじーーワッ!」
頑なに固辞する名前の荷物を取り上げたのは、何故か釘崎だった。
「名字さん、荷物持ちは男共に任せて行きましょ」
名前の荷物を伏黒に押し付けた釘崎は名前の手を引いて歩き出した。
どうやら彼女の荷物は虎杖が持つらしい。
「あ、あの……」
未だ手は繋がれたままである。
どうしていいか分からずに声をかけた名前を振り返った釘崎はにっこりと白い歯を見せて笑った。
「私あんまり名字さんと絡みなかったから、ゆっくり話したいと思ってたのよね。ねえ、高専に来る前から虎杖と伏黒と知り合いだったって本当?」
「あ、うん。悠仁は仙台にいた頃近所に住んでて、伏黒君は……私に憑いていた呪霊を祓ってくれたことがきっかけで知り合った感じ」
伏黒が恋人であることを話すわけにはいかないため、名前は少しばかりの嘘をつくことにした。
「どうして高専に?」
「うーん。術式上私の目は呪詛師や呪霊に狙われやすいらしくて、五条さんの計らいで悠仁のついでに保護してくれたって感じかな」
「なるほどね」
うんうんと釘崎は頷く。
実際に名前と話してみたが、印象としては普通だ。
一般企業で働いていただけあって、しっかりしている。ちゃんとした大人って感じがする。だからこそ、益々五条と付き合っているという噂が信じられなかった。
好奇心旺盛かつ虚心担懐なのが釘崎野薔薇である。
信じられないので、単刀直入に聞くことにした。
「名字さんと五条先生が付き合ってるって本当?」
釘崎の質問に名前は目をまん丸にした。
「なにそれ。嘘だよ。そんな噂が流れてるの?」
虎杖を匿っていた際に五条とよくいたため、そういう噂が流れたのは知っていたが、普段の距離感に戻った現在も未だに誤解が解けていないことに驚いた。
「じゃあ付き合ってて、別れたとか?」
ぐいぐいと探ってくる釘崎に名前はナイナイと両手を振った。
「そもそも付き合ってないよ。付き合うわけないじゃん」
「でも五条先生、容姿はいいじゃない?特級だからお金も困らないだろうし、家柄もいいし」
それを差し引いても性格が宜しくないが。真希と話した強いて五条と付き合う理由を並べながら釘崎は名前の顔を覗き込んだ。
「確かにかっこいいとは思うけど。逆にそれだけハイスペックなら釘崎さん的にはどうなの?」
名前の質問返しに釘崎は酷い顔で応えた。

五条の話で盛り上がる釘崎と名前の楽しそうな姿を虎杖は写真に収めた。
「なにしてんだ?」
撮った写真を確認する虎杖に伏黒は眉を寄せた。
「さっき五条先生に滝で撮った写真送ったらもっとくれって言われてさ」
「……遊びに来てるわけじゃねーんだぞ。消せ」
「へいへい。でも五条先生、名前ちゃんのことすげえ心配してるんだよなぁ。安心させてあげたいじゃん?」
「あの人ただの事務員だもんな」
「そうそう。戦闘はからっきしだから」
高専を出る前に五条から「くれぐれも名前をよろしく」と頼まれている。
「五「ここだけの話、名前ちゃんと五条先生ってまだ付き合ってないンスよ、伏黒さん」
伏黒の言葉を遮った虎杖は、わざとらしく声を顰めて言った。
名前と五条が付き合っていないことなど当たり前に知っている。五条と名前が噂になっていることも知っているが。
「だからなんだ」
だからなんだ。名前と付き合っているのは自分だ。
「俺、五条先生と名前ちゃんのこと応援してるからさ。伏黒も一緒にキューピッドやろうぜ?」
したり顔の虎杖に伏黒は一瞬固まった。
「断る」
「えー!なんでさお似合いじゃんかよぉ」
「似合ってない」
肩を組もうとしてきた虎杖の腕を跳ね除け、伏黒は今日一番の舌打ちを落とした。
「伏黒〜」
誰が協力するものか。
縋り付いてくる虎杖に重めの肘鉄を入れた伏黒は、痛がる虎杖を横目に再び舌打ちを落とした。

prev next
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -