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今日、名前の両親が来るらしい。大家から連絡が行った両親は朝一番の新幹線でくるとか。警察が犯人を捜しているが、未だ捕まっていない。不安そうな名前が可哀想だった。食事ものどを通らない。無理にでも食べさせたかったが嫌がったので、折れた。

「もうすぐ両親くるってさ」
「うん……」
「嬉しそうじゃねェな」
「これからどうなるのかな、ってお母さん心配性だから一緒に暮らすって言いだしそうだし、きっと今のところにはもう住めないし…高杉さんに会えないのは嫌だなあ」
「そうだなァ……」
「どうしよう」

怪我のことより、自分と会えなくなることを心配する名前。高杉はしばらく思案していたが、席をはずすと坂本に電話を掛けた。数コールで彼は出る。

「おっ、高杉か!こんな朝早くから珍しいのお!」
「坂本、俺と銀時ってお前の会社の従業員ってことになってるよな」
「そうじゃ。二人とも商社快援隊の課長って肩書じゃ。課名は忘れたがな…あっはっは!」
「今度名刺くれ」
「良いぜよ……?」

坂本が初期に資金集めとして開いた店が今の攘夷。知らぬ間に会社は随分大きくなっていたらしい。商社とは。だが、これで名前の両親に面目が立つ。にやにやとしながら病室に帰ってきた高杉に名前は首をかしげた。黒いセーターにラフなジーパン。いつもと違う高杉に見惚れる名前に高杉は声をかけた。

「……ホストの仕事、やめてもいいんだぜ?」
「え……?」
「一応坂本の会社の肩書もあるってわかったしな。お前ぐらい養っていける」
「……」
「両親も来ることだし、な。挨拶ぐらいはするさ」
「……やめないでください」
「?」
「確かに高杉さんが他の女の人にべたべたされるのは嬉しくないけど、でも、女の人を喜ばせてる高杉さんは好きです。あたしの我慢が限界にくるまでは、続けて欲しいなって」
「そうか……」
「そうです」

名前のスマートフォンにメールが入った。『この人?』との文面に、添付写真。攘夷の防犯カメラの画像だが、確かに背格好は似ていた。ズームした写真。右目の上のほくろ。この人かもしれない、と思った。猿飛に返信をすると今度は高杉のスマートフォンの方に着信が入る。銀時から。名前に断って部屋を出た。

「なんだ」
「今、あやめと昨日の客の写真見てたんだが、名前ちゃんがこの人かもしれないって」
「……昨日言ってたしつこい客か」
「そうだな」
「そうか……」

やっぱり俺の客だったか、と小さく高杉はつぶやいた。銀時も何も言わない。やっぱりこの仕事からは足を洗った方が良いのかもしれない。潮時か。このことを警察に言った方がいいのか、言わない方がいいのか。名前の腹部に残った傷を思い出す。彼女の体にも一生消えない傷を作ってしまった。責任は取る。病室に戻るなり名前の病人服を捲って傷口を見る。慌てたのは名前だ。あまり見られたくない。高杉は暴れる名前の手を抑え、傷口付近に軽く吸い付いた。赤い印を残す。

「ちょ、診察の時どうするんですか!!」
「いいんだよ」
「よくないです!!」

喧しい口にも一つ。あの女のことは銀時と猿飛がなんとかすると言っていた。任せてみようと思う。コンコンとノックの音で二人は離れた。看護婦が検温の為にやってきたのだ。病室の外に追い出された高杉だった。病室の外には大家がいる。会うのは初めてで、挨拶だけはしておこうとおもった。お互いに名乗った後は、世間話を少々。聞けばあと数十分で彼女の両親が来られるらしい。正念場か。看護婦が出て行ったあと、高杉と大家は名前の病室にはいる。二人で入ってくるとは予想もしていなかった名前は驚きのあまり薬を落としそうになっていた。

「名前ちゃん、あと数十分でご両親いらっしゃるからね」
「は……はい」
「こんなことになっちゃって本当にごめんね……」
「いえ、そんな」

換気の為と、開けた窓から年末の凍えるような風が入ってくる。名前の体が冷えないようにと、猿飛が持ってきた上着をかける高杉の姿に大家は目を細めた。お邪魔かしら、と笑う大家に大きく頭を振る名前。一階で待っているという彼女を送り出した。

「ちゃんと挨拶させろよ」
「なんて挨拶するんですか?」
「……娘さんをください」
「お父さんも入院しそう」

ケラケラと笑う名前につられて高杉も笑った。今回の始末がちゃんとついたら。名前の首に光るルビーのネックレス。彼女がプレゼントくれたネクタイピンは財布のなかにしまってある。親が来るということで緊張の色を見せ始めた高杉が珍しい。彼にばれないよう口元まで布団を上げた。

「今度はちゃんと守ってやるからな」
「こんなこと、二度とはごめんです」

布団を下げ、少し乾いた唇に口つけた。最初は浅く、だんだん深く。目を閉じ、手を握ってくる名前に理性は揺れるがここは病室だ。けれど、次に二人っきりになれるのはいつかわからない。せめて、とばかりに求め合った。ベッドに乗り上げ、触れ合う。二人の時間に終わりを告げるかのように名前のスマートフォンがメールを受信した。大家さんから。

『ご両親いらっしゃったよ』

名残惜しそうに離れ、名前は赤面する。高杉も少し乱れた服をただし、何事もなかったかのようにパイプ椅子に座って新聞を読み始めた。その指が僅かに震えているのを見て名前は布団を頭までかぶり、にやけた顔を隠した。

END

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