02


「…大丈夫ですか?」
「…」
「…あの、」
「…」
「…」
「…」
「ここ、どこですか?」

学校に向かう途中で不思議な女性を見つけた。

自販機の前でコーヒーを買ったらしく、寄りかかって飲んでいる、それはいい。だが鞄を漁りながら「あれ?あれ?嘘。え、嘘ォ!?」と一人あたふた仕出しついにはパニックに陥ったのか自販機に頭をぶつけだした。怪しすぎる。まだ人通りの少ない時間帯だとはいえ歩行者は訝しげな目で彼女見ている。行動もそうだが、彼女の格好もなかなかおかしい。群青色のロングドレスを身にまとい恐ろしくヒールの高い靴を履いていた。ノースリーブかつ胸元ざっくり太ももチラリズム。視線がそちらにいって
しまうのは健全な男子高校生としてはしょうがない。そしてじろじろ見ているうちに目があってしまったのだ。彼女の目が輝いた。そして冒頭に戻る。

「新宿駅に行きたいんですけどね、携帯落としちゃった見たいで」
「…そうですか」

性分なのか、一端声を掛けてしまった以上最後まで面倒を見るべきだというよくわからない正義感に突き動かされて彼女を新宿駅まで送ることにした。どうせ通学で手間にはならないが、もしも同級生や同じ学校の人間にこんな所を見られたらどんな噂が立つかわからない。どっからどう見てもホステスにしか見えない彼女は飲みすぎなのか、たまに手首で頭を叩いていた。そしてふわぁあと欠伸をする。ふわりと甘い匂いとアルコールの匂いが香る。

「お仕事ですか?」
「ん?うん。でもこれから講義があるから着替えて大学いかなきゃ」
「大変ですね」
「父親が借金こしらえたまま逃亡しちゃってさ、あはは」
「…大変ですね」

二度目は本当に心をこめて言った。
借金の返済のためにホステスなんて本当にやる人がいたのか。それにしても大学とホステスの両立なんてよくできるものだ。並ぶと自分より背の高い彼女はホステスよりモデルの方が向いている気がする。可愛いってより美人系だから。目もぱっちり、というより切れ長だし。真っ赤に塗られた唇なんてニヒルに笑うたびサディスティックに歪む。どう考えても男に媚びを売るような感じではない。まぁいいけど。

「あ、新宿駅!本当にありがとう」

手を握られてブンブン降られた。痛い、握力が予想以上に強い。

「ここで大丈夫ですか?」
「うん。本当にありがとう!お礼にお店に遊びにきて、っていいたいけど…未成年だもんね」
「そんな、お礼など結構です」

やはり彼女は水商売らしい。じゃあ、と言って自分は駅構内に入っていく。どうやら彼女は電車に乗るのではなく家に歩いて帰るようだ。振り返れば彼女が手を振っていた。軽く振り返して階段を上る。

彼女から移ったであろう甘い香りが僅かに制服から香った。

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