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十五歳の夏に母親が父親から逃げて、十七歳の春に父親が私から逃げた。残されたのは父親と体を寄せ合うように暮らしていた古い狭いアパートと莫大な借金。あの父親は娘が生活費を稼ぐために連日バイトをしている間に賭博や女にその金を費やしていたらしい。しかも私の口座から勝手にお金を引き出して。トドメとして詐欺にも引っかかっていた。

「新しいお母さんが欲しくないかい?」

こんなダメな親父に惚れる奴がいるのかと思って、いらない、と答えたが本人はノリノリだったのだろう。結婚詐欺。馬鹿じゃないのか。

「彼女には結婚を機に清算しなきゃいけない借金があるんだ」

他人の心配より自分の心配をしろよ、と思った十六の冬。怪しいと思っていたが父にクレジットカードは渡していなかったから安心していた。が、なんとその女はわざわざ新しいものを作らせたのだ。何故、父親もその時点で気づけない。馬鹿なの?死ぬの?と罵った記憶がある。冗談じゃなく心中まで考えた。結局父は笑えないというか、もう死ぬしかない巨額の借金を抱えて逃げ出した。いや、借金ごと逃げたならいいが何故か私を保証人として逃げたのだ。

銀行からの借金だけならまだいい。よりによってサラ金やらに引っかかってしまったから救いようがないのだ。まさか人生で取り立てに遭うとは思ってもみなかった。自己破産したくともさせてもらえない現実の地獄。取り立てに追い詰められてついに身体なり内臓なりを売るか、と決心した私を止めてくれた人がいる。どこからか私の話を聞きつけて借金地獄から救ってくれたのだ。その人の名をうちはマダラと言う。こんな平凡な高校生でも聞いたことのある一流警備会社の若手社長だった。なんでどうして、と聞く私の質問に曖昧に答えながら取り立ての連中に札束が入ってるであろうスーツケースを投げた彼の姿を忘れない。その瞬間、銀行の借金はとにかくサラ金からは解放されたのだ。

もちろんお金は返すつもりだが、何かお礼をと言った私に働き先を紹介してくれた。そこが今働くクラブ「大蛇」
たまに様子を見にきてくださるマダラさんに感謝の言葉も尽くせない。肩代わりの代償としてどんな事を請求されるかと思えば、むしろ何もなくて拍子抜けした。携帯電話まで頂いて連絡をとれるようにしとけ、と。大学の学費まで援助して頂いている。大学合格の祝いに連れて行ってもらったバーで聞いてみた。「どうしてこんなに良くしてくださるのですか」と。するとマダラさんは「君のお母さんに惚れていたんだ」と答えた。なーんだ。「あんな悪女にどうしてマダラさんみたいな素敵な人が惚れたのか理解できない」と言えば「気づいたらコロッと落ちていたんだ」と答える。ちなみに母とマダラ様が出会ったのも「大蛇」でらしい。

そして私は誰も信じない。利用できるものは利用してやると誓った。

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