24

名前と虎杖は待ち合わせ5分前に五条から指定された新幹線中央口改札へと到着した。そこには既に五条の姿があった。
「あれ、なんでお札剥がしてんの?」
おはようございます、の「お」の字を名前が発音する前に五条から咎めるような声がかけられた。
「おはようございます!」
出鼻を挫かれた名前の代わりに虎杖が元気よく返事をした。
「おはよう。はいこれ切符。で、なんでお札剥がしちゃったの」
虎杖と名前に新幹線の切符を渡した五条は、名前のサングラスを取りあげた。
五条は、名前の瞼を固定するように呪力を込めた呪符を貼ったはずだった。それがすっかり剥がされ、丁寧にアイメイクまで施されていた。
「目に貼ったままだと何も見えないじゃないですか」
「そうでもないんじゃない?」
名前は頭の上にクエスチョンマークを浮かべた。
「まあ後で貼り直すからいいや。とりあえず行こう」
剥がしちゃったなら仕方ないと諦めたように言う五条の後に続いて虎杖と名前も4階ホームに上がる階段を登った。
平日朝のホームは閑散としており、名前達の他に人影は疎らだった。

3人が乗る予定の新幹線は既に到着をしていた。指定席を取っていた五条は足早に席へと向かい、2人がけの座席を引っ繰り返すことで、ボックス席状態にした。
「二人とも窓側にどーぞ。僕、足伸ばしたいんだよね」
端の座席を取ったおかげで名前のキャリーケースは座席と連結部の扉の間に収めることができた。
五条の指示に従い、名前と虎杖は窓側の席に向かい合うように座った。
五条も虎杖の隣に腰を下ろした。
「俺、新幹線初めて!」
「あっそうなの?」
虎杖は目を輝かせながらガラガラの車内を見渡した。
「東京までどのくらいかかんの?」
「6駅2時間かな。気になるなら車内散歩してきてもいいよ。僕たち話してるから」
「マジ?いいの?」
落ち着かない様子の虎杖を名前は微笑ましく見守った。祖父の手一つで育てられた虎杖は家族旅行の経験も無いだろうし、中学校の修学旅行では新幹線に乗るような遠出はしない。
名前もパソコンを鞄から取り出し、メールの確認を始めた。
「いやいやいや何仕事始めてるの。君には色々説明しなきゃいけないものがあるから、手を止めて真面目に僕の話を聞いてくれないと」
五条はポケットから取り出した呪符をヒラヒラと揺らした。
「はあ」
名前は気の抜けた返事を返し、一先ずノートパソコンを閉じた。
「まず、君が昨日高校で見たものの説明からするとねーー」
五条は名前に、呪いの存在についてを丁寧に教えた。そこで初めて名前が見た特撮映画の怪獣のようなものが『呪い』であったことを知った。
「呪いは呪いでしか祓えない。人間に宿る呪いは呪力と呼ばれ、呪力を扱える人間が呪術師と呼ばれる」
「はあ」
「君にも呪力があり、コッチ側の人間だ」
「はあ?」
名前は相槌の語尾を上げた。
「僕の目は、簡単に言うとめちゃめちゃ詳細に呪力が見える目なの。だから君に呪力があることもお見通し」
五条は手に持っていた呪符を名前の目に貼った。
横向きに貼られたそれは粘着剤が付いていないにも関わらず、静電気で張り付くようにぴったりと名前の目を覆った。
「誰かが君の呪力に封印を施していたみたいだ。繰り返し上書きされたせいかあそこまで複雑化した封式は僕も見たこと無かったよ。それがここ数日で急激に解けてるみたいだけど、心当たりある?」
「1週間前に祖母が亡くなりました。その頃から目の違和感もあります」
「なるほどね……今、君の眼球は呪力、術式に耐えきれずに悲鳴をあげてる。マジでこのままだと失明するよ」
怖がらせるでもなく淡々と説明する五条の口調に、現実的な恐怖を覚えた名前は小さく悲鳴をあげた。
「おばあさんの気持ちは分かる。可愛い孫を呪いと関わらせたくないだろうし、君の術式の天眼通、別名『千里眼』は曰く付きだ」
五条は長い足を組み替え、興味深そうに名前を観察した。
「生得術式は同系統の者に受け継がれる傾向がある。だけど天眼通だけは決して相伝しないと言われてる。何でだと思う?」
「知りませんけど」
「僕も理由は知らない。けど、こういう噂があるんだ」
声を顰めた五条に、名前と虎杖は頭を寄せた。
「千里眼を食った者が、その力を受け継げるって話。有名だよ。人魚の肉を食べた八百比丘尼の話は知ってるでしょ。それと一緒」
「人魚の肉を食べると本当に不老不死になんの?」
素朴な疑問を虎杖が投げた。
「人魚がいるかどうかから確認しないといけないね。人魚は実在しないかもしれないけど、天眼通は、実現している。ここにも」
虎杖は目の前に座る名前に視線を縫い付けた。
「まあ何が言いたいかって言うと、君のその目玉は悪い呪術師や呪霊に狙われますよってこと」
「…………」
「だからおばあさんは必死に孫の呪力を封じてたんだろうね」
情報量の多さに頭痛を感じた名前は、肘置きに肘を突き、左手で顔を覆うように抑えた。
「僕たちは君も高専で保護する。まずは目の治療をして、そのうち呪力のコントロールも学んでもらう」
「でも私、仕事がありますし……」
「高専での事務職に席を用意したよ。よかったね。ブラック企業からの転職ができて。うちもなかなかブラックだけど」
名前の性格と術式は戦闘向きではないだろう。補助監督ならば向いているかもしれないが、現場に出る出ないの判断を急ぐ必要は無かった。
「……あー、取り敢えず午後出社はしてもいいですか?辞めるなら早めに言わないと」
「いや、まずは治療だ。会社には後で遅れるって電話してもらうよ」
渋る名前に虎杖も口を添えた。
「名前ちゃん、仕事より身体の方が大事だって」
五条と虎杖、2人から諌められた名前は嘆息を洩らした。確かに体を壊しては元も子もない。
名前は渋々と高専行きを了承した。

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