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店を出た後、恐る恐るというように腕を高杉の腕に自分の腕を絡めて見た。少し驚いたように名前を見た高杉だったが、にやりと笑みを浮かべて手も絡める。新宿をふらふらと歩き、よさそうな喫茶店かバーがあったら入ろうと思っていた。ハロウィンも過ぎ、なんとなくクリスマスムードが漂い始めている街中。普段プライベートで使っている喫茶店に彼女を連れて行った。カウンター式の半個室。温かい飲み物でも飲みながら少しは無そうと思った。ずらっとならんだ紅茶やコーヒーの種類に目をくらませる名前。とりあえず紅茶にターゲットを絞った。

「ダージリン…アッサム…ニルギリ…?ケニア…ウヴァ…ディンブラ…ヌワラエリヤ…キャンディ…ルフナ…キーマン……」
「フレーバーは次のページにあるぞ」
「すみません全く分からないんですけど……」
「ストレートかミルクか、レモンか」
「ミルクティがいいです」
「適当に頼むけどいいか」
「むしろありがたいです」

フレイバーのページを開いた高杉はグランボアシェアリバニラのミルクティとジョルジのストレートティを頼んだ。芳酵なバニラの香りがするグランボアシェアリバニラと濃いオレンジ色のジョルジ。鼻腔をくすぐる優しい匂い。

「前に話した男の子いるじゃないですか」
「あぁ」
「昨日家に泊まっっていったんですよね……」
「……」
「もちろん何もなかったんですけど」
「ほォ……」
「なんですかそのチクチクとした視線は。半ば強制的に転がり込んできたんですから仕方ないじゃないですか」

名前は紅茶に一口口をつけた。高杉の口元は笑っているのかもしれないが、白いマグカップに隠れて見えない。恐る恐る、探るように名前は言葉を紡いでいった。

「まだうっかりときめいちゃうんですよね……」
「そりゃあ一回好きになった奴には何度でもときめくだろうよ」
「そんなもんなんですかね?」
「そうだ」

高杉に言われると説得感があった。恋とは別の感情。だから、お前が気に病むことはなにもない、と言われているような気がした。温かい紅茶が心まで温めてくれる。名前は高杉をじっと見た。うーんかっこいい。甘いフェイスに鋭い目が危険な甘さを醸し出しているのだろう。翡翠色の目を覗き込む。逃すには惜しすぎる色男。

「高杉さん」
「なんだ」
「お返事、いましても宜しいでしょうか」
「いつでもいいぜ」
「……」
「……」
「高杉さんってフラれたことなさそうですね」
「さぁな」
「……」
「……」
「付き合ってください」

その言葉を待っていました、とでも言うかのように高杉は口角を上げ名前の腕を引き寄せた。唇に感じる熱と舌先に感じた熱。ジョルジの香りが広がった。反射的に目を閉じる名前。目を閉じて神威の顔でも浮かんでくるかと思ったのに誰も浮かんでこなかった。ゆっくり高杉が離れていく。急に恥ずかしくなった名前が机に突っ伏した。赤くなった耳を高杉が軽くなぞる。びくっと震えた肩に手をまわす。

「せ、セクハラですぞっ!」
「恋人同士だろ?」
「物事には順序ってものがありまして…」
「手繋いだだろ?腕組んだだろ?次はキスだろ」
「ハグが抜けてます!」
「あとでしてやるよ」
「そういうことではなくてっ…!」

頭に血が上り、顔がほてっていくのが感じられた。紅茶の味ももうわからない。距離をとる名前の腕を再び引き寄せて頬に口を寄せる。腰に手をまわした高杉に身の危険を感じた名前はじたばたともがいた。拒絶されたようで高杉の眉間には皺ができる。

「高杉さん手が早いです」
「好きだからな」
「私にはまだ心の準備ができていないというか、その、ダメです!」
「ククッ……まだ何もしねーよ」
「さっき舌入れてきたくせに!説得力皆無ですよ」
「キス以上のことはしねーよ」
「ううっ……」

一応、納得した名前は大人しく高杉の腕の中に納まった。静かになった彼女を肩に寄せて少し冷めた紅茶を啜る。椅子に掛けたコートのなかで振動する携帯が煩わしかった。同時に名前のスマートフォンの中身も気になる。大学での彼女を全くと言っていいほどしらないのだ。通っている大学名や学部は知っていても普段どんな友人と過ごしているかなんて知らない。それに同じ大学には名前が恋敗れた相手もいるのだ。浮気なんてされるとは思わないが、気になる。予想以上に嫉妬心は深いようだった。

「……高杉さん?」
「なんだ」
「携帯鳴ってたんじゃありません?」
「気のせいだろ」

気のせいかな?と首をかしげる名前の頬を一撫で。どうすればいい雰囲気が作れるかなんてわかりきっている。誤魔化した自分が嫌だったが、これはもう性分だ。煙草が吸いたい。名前を手に入れたはいいのだが、今後イヤな想いをさせてしまうだろう。とりあえず銀時には秘密にしておかなければならない。アイツは絶対に反対する。銀髪の同僚と紫髪を持った名前の友人のことを思い出して再び煙草を吸いたくなった。

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