03

 
湯隠れの拷問部隊は他里に比べたら温いものだとは知っていたが、拷問は拷問だ。苦痛なことに変わりはない。さらに言うなれば、ここには木の葉の山中一族のように頭のなかを覗ける忍術もないためひたすら苦痛を与えられるだけ。ズラリと並べられた拷問道具は相手に精神的プレッシャーを与えるためのものだろう。私を拷問したところで何も言うつもりはないし、そもそも湯隠れの里にばらされて困る秘密なんかない。

「時間の無駄だと思いますけどね…」
「黙れ」

なんて理不尽な!久しく使われてない拘束用の鎖は錆びついていて今にも崩れそうだ。なぜか長を残して皆退出してしまう。そういえば、我が里の長は変態的性癖をお持ちだと耳にしたことがあるが。腰のホルダーから出てきたのは黒皮の鞭。ああ、そういうご趣味ですか。両手首につながれた鎖が機械を通して上へ上へとあげられていった。かろうじて爪先で体重を支えている状態。

「ちゃんと立たないと肩が外れるぞ」
「……」

少しでも力を抜くと全体重が手首にかかってくる。明々とした部屋が逆に嫌だった。足元には今後つけられるであろう錘が大量に積まれてあるし、長の横には座り心地のよさそうな椅子とワインまで置いてある。この部屋とその光景があまりにもミスマッチだったため笑ってしまった。似合ってねーよ。日頃から玉の輿に乗りたいとは言っていたが、こいつみたいな男に嫁ぐのは無理だな。自分と長の新婚生活を想像し、あまりの悲惨さに再び笑うと手首が悲鳴を挙げた。

「あんた、飛段のことなんかどうでもいいんでしょ」
「さあな。だが抜け忍は始末しないと里の沽券に関わるんだ」
「こんな里なんか」
「どんなに小さな里でもないよりかはマシだろう?そうは思わないか?」
「お生憎様。私、いい加減に転職でも考えてたの。あんたも転職したら?どう考えても長って器じゃないよ」

近づいてくる影に下げていた顔を上げると足が10センチほど床からあげられた。ついでに二の腕に錘がつるされる。肩の骨が軋みだした。足ではなく腕につけるなんてとんだ鬼畜だ。脂汗が滲んで視界が歪み始めた。『汝、隣人を殺害せよ』あの馬鹿は今頃、ジャシン教やらにでも入教しているのだろう。くそっ。こんなことなら飛段の話をもっと真面目に聞いておくべきだった。里を抜けるなら一言かけてから行けよ…ああ、だから昨日私を探してたのね。合点したわ。合点したけど、やっぱりムカつく。いま追い忍が飛段を追っているだろうが、あいつの行方をつかむのは難しいだろう。ジャシン教の組織がかかわっているならばなおさら。

「医療班のエリートをまさか殺すわけにはいかないからね。濡れ衣が晴れるまでここで待っていてもらおうか」
「…これ、外してくれない?」
「まさか」

ゆったりと椅子に腰かけて、痛みに悶絶する私をつまみにワインをごくごく飲んでいく。なんだか喉が渇いてきたが、この男にそれを言っても何も解決しないだろうし、むしろ悪化するに違いない。あと3日。人生のなかで最も長い72時間になりそうだ。


ありがたいことに長は2日目以降には姿を見せなかった。2日目からは見知らぬ暗部の監視のもとでただただ耐えるだけ。肉体的な苦痛はもちろん、このままだと精神がやられそうだ。ぐわんぐわん揺れる視界を瞬きを繰り返すことで保ち、腕の痛みで意識を飛ばしてきた。覚えてやがれ。壁に立つ暗部の姿をひたすら睨みつける。あと何時間?もう何日?母さんと父さんは無事だろうか。とばっちりを食らってなければいいけれども。死ね飛段。

「…外してやれ」

扉から新しい暗部が入ってきたと思ったらこの言葉が部屋に木霊した。久しぶりの人間の声である。錘を外され、鎖から解放されるも、解放感は全くなかった。倒れこむ私を支えるこの人を、私は知っている。彼女とはちゃんと仲直りできたのだろうか。いまならあのウザい惚気話だって耐えられる。それよりも飛段、飛段はどうなったの。口をあけるも声はでず、異常に重たい瞼に負けた私は気絶した。


■ ■ ■


霞む視界をこじ開けるとそこは白一面の世界だった。寝ている白いベッドに、白いカーテン…白いサイドテーブルに乗せられた花瓶。ちなみに花は飾られていない。病院、だろうか。ゆっくり体を起こすと全身が激しく痛んだ。右腕には点滴が突き刺さっている。記憶は曖昧だがあるし、何より両手首の痣がすべてを語っていた。点滴を抜き、ゆっくり床に足をつける…が、自力で立てなかった。へたり込んでしまう。

「くそっ」

思わず悪態をつくと勢いよくカーテンが開けられた。凄まじい勢いで抱きしめられ、その力の強さに、再び全身が痛んだ。誰。私の肩に頭をうずめるようにして泣いているその人の顔は見えないが、洋服や懐かしい匂いから誰だかわかった。

「…お母さん」
「名前…!あんた3週間も起きないから…!」
「マジでか…」
「心配かけて…全く!!」

ベッドの上に這い上がり、甘んじて説教を受けることにした。どうやら私は任務中に怪我をしたことになっているようだ。もっともらしい説明である。母さんはいまだブツブツと小言を零している。里のみんなは飛段が里抜けしたことは知っているのだろうか。母さんは飛段について何も言わない。それが逆に気味悪かった。私が怪我をしても飛段と連帯責任。飛段が怪我をしても私と連帯責任とかいって理不尽に説教していたのに。息子同様の飛段に何かあったなら迷わず私に聞くはずなのに。
「母さん…飛段のこと聞いた?」
「……」
「あいつがどうなったか分かる…?」

そう聞くと母さんは顔を一気に暗くした。もしや捕まったのか。それとも殺されたのか。何も話さないだろう母さんに痺れを切らし、自力で情報を集めようと再三、床に足をつけた。

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