02

身体が酷く重かった。暗部の集会の内容なんて正直いって記憶に無い。代わりに頭の中をエンドレスで回っているのは約29時間前の飛段のセリフ。あの馬鹿ならやりかねない。さっきの集会にいなかったのも嫌な予感にしかつながらないのは考えすぎだろうか。いや大丈夫だ。飛段がこなかったのは私が呼びに行かなかったからに違いない。忘れてたんだきっと…うん。

「おい名前」
「何でしょうか」
「さっき飛段が探してたぞ」
「…マジッすか」
「なんだ暗い顔して…喧嘩でもしたのか?」
「いえ。そういえば先輩」
「?」
「彼女が先輩の浮気現場を目撃したーって騒いでましたよ」

その言葉にニヤニヤしていた先輩の表情が一変した。一礼して先輩に背を向けると何故か彼は私に縋りついてくる。なになになに!?私忙しいんですけど。あなたに構っている暇はないんですけど。というか腕痛いんですけど。

「…あいつどのくらいキレてた?」

知るかアアア!!頭のなかで『リア充爆発しろ』の文字が浮かび、むしろその言葉を先輩に吐き捨ててやろうかと思ったが一層みじめになるだけのような気がしたからやめておいた。代わりに先輩を慈愛の目で見つめ、フッと軽く笑う。それを見た先輩の顔が青ざめて、なおかつ引き攣っていくの見て胸が清々した。ざまあみろ。この先輩にはよく相談という名目で惚気話を聞かされたものだ。思い出すだけで吐き気のするぐらい甘い、甘い惚気話。同じ話を何回もされる苦痛はなかなかのものだ。これで懲りてくれるといい。


■ ■ ■


落ち込んでしまった先輩に飛段がどこにいるのか聞いても教えてくれなかった。この時間にあいつがいそうなところは家か定食屋か。温泉にはいないだろうな。道行ゆく同僚に飛段を見なかったかと聞いても、誰も知らないという。何処行きやがった。

「おーい飛段?」

飛段の家の玄関を叩けども応答はない。本当に何処行った…?今日は任務も入って無かったはずだし、飛段と約束をした覚えもない。舞い込んでいた書類整理を後々に回して飛段を探すことを優先したが見当たらない。観光客にまで声をかける次第だ。本当にどこいったの。



翌日の朝、私を起こしたのは耳障りな召集用の鳥の鳴き声だった。夢現でそれを確認し重い身体を上げたけれども眠い…。諦め悪く布団の中でもぞもぞする私を本格的に覚醒させたのはお母さんのどなり声だった。なんだか怠い。洗面所で顔を洗い、歯を磨き、朝ごはんも食べずに召集所に行くと暗部小隊が2つほど集まっていた。飛段の班は…いない。

「遅いぞ」
「すみません…」

湯隠れには影がいない。そのためか、こんな独裁体制のような形になってしまっているのだろう。一番最後に入室した私を睨みつけるコイツは忍でもないのに、ただ金持ちってだけで仕切っている嫌な奴。舌打ちをこらえて頭を下げると奴は満足したように笑った。顔を背けた私に窘めるように先輩が肩を叩いた。

「さて、今回君たちを呼び出したのは追い忍として働いてもらうためだ。Aか…S級任務になるだろう。抜け忍は暗部の人間だ。くれぐれも油断しないように…血継限界はない」
「つまり、見つけ次第殺せってことでしょうか」
「ああ、そうだ」

にやにや。ひたすら私を見てニヤついてくるこいつは何が言いたいのだろう。任務の指令がでて空気がピリリとするのが感じられるが私は任務より男の視線の方が気になった。先輩が再び声を発したので意識をそっちに集中させた。

「で…その抜け忍名前は…?」
「飛段だ」

分かっていたような、でも信じられないような。理解に苦しむ空白の時間。ただ冷静なままのはずの頭の先から冷たいものが足のつま先まで通り抜けていった。ジーンとした感覚が頭の中に残り、目の前が点滅する。最後に合ったのは2日前の朝。あの飛段が私に連絡も無しに里を抜けるなんて信じられない。皆もそう思っているのか仮面の裏から私に視線を寄越してくる。里抜け、里抜け。死傷者を5人も出すなんて何考えてるのあいつは。

「おいお前…猫の面のお前だ」
「…私でしょうか?」
「お前確か飛段といつも一緒にいた女だろ…心当たりは?」
「ありませんけど…」

どうやら奴は私が何か知っていると疑っているらしい。いや、この部屋にいる全員が私を警戒している。確かに私が第三者だったら間違いなく私を疑うだろう。目配せをした仲間が入り口の扉と窓を塞いだ。逃がさないっていうことだろうか。飛段に振りまわされてばっかりの人生にうんざりした。

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