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屋上に建てられた非常用管理室の周りは防弾大盾を持った機動隊で固められ、その後ろでナイルを始めとするスーツ姿の警察官が現場の指揮をとっていた。階段を登り、屋上に姿を表したリヴァイは四方から突き刺さる視線を気にすることなくナイルの元へとむかった。その後ろを歩く名前のことを知る人物はいないのか、ただの付き添いの部下のように思われているようだ。

「リヴァイ、話は聞いたか?」
「ある程度はな……いや、もう一度聞かせてもらおう」
「立てこもっているのはケニー・アッカーマンという男だ。公安部に所属している。この男、どうやらマリア銀行爆破事件の主犯らしい」
「……その情報はどこから?」
「ピクシス警視総監だ。お前たちが特殊チームを作っていたのは知っている。逆に言えば、たいしたことは知らされていないがな」

彼がどこまで話しているのかわからないリヴァイはその件について言及することはしなかった。後ろに立つ名前もそわそわした雰囲気は出しているものの、口を突っ込むことはしない。ナイルは曇空を見上げながら厄介そうなため息をついた。

「で、人質になっている彼女だが、ケニー曰くどうやら彼女が実行犯の一人のようだ。そのせいでこっちの頭は混乱状態だ。主犯が実行犯を人質にとって立てこもりなんて聞いたことがない。まとめて制圧されるのがオチだ」
「それでも踏み込んでいないってことは、自爆でもするつもりなのかあいつは」
「ご名答だ。人質の身体にダイナマイトを巻きつけてやがった」
「……ヘリの準備は?」

ナイルは首を振った。どうやら圧力がかかっているらしい。ケニーの所属していた部署からしてみれば、厄介者が二人とも死んで被疑者死亡で事件を片付けたいのだろう。リヴァイもそれを察し、管理室を睨んだ。ケニーもこうなることは察していたはずだ。だからこそ、リヴァイを交渉人として呼んだのかもしれない。

「ケニーと話をつける。連絡手段は?」
「直接だな。お前を指名した時は、連れ込んだ看護師に言付けを頼んで解放した」

事件の発覚はそこから起こったらしい。ケニーはアニと男性看護師の一人を連れて非常用管理室に立てこもったものの、すぐに看護師は開放されたらしい。ケニーからの言付けを受けて警察に連絡を入れ、今に至る、とナイルは語った。

「名前、お前に考えはあるか?」
「私はとにかくあの中に入ってアニと話がしたいです」
「……お前に話を振った俺が悪かった」

リヴァイはエルヴィンに電話を掛け、上に来るように言った。名前はそれを聞いて嫌そうな顔をした。非常用管理室は屋上の隅に建てられている。机の上にある地図にちらりと視線を投げながら名前は首を掻いた。この病院は五階建てだ。病院のすぐ横には大きな川が流れている。

「名前……?どうした」
「いや、なんでもないですよ。勝手な行動をするつもりはないので、私は奥で少し休ませていただいてもいいですか」
「具合でも悪いのか?」
「久々に外にでて運動したから疲れたんです。貧血のようになっているだけなので、少し休ませていただければ大丈夫です」
「……おい、誰か側についてやってくれ」

リヴァイの言葉にヒッチが手を上げた。いい加減立ちっぱなしで足が浮腫かけていたのだ。昨日買ったばかりの靴を履いてきたせいだと分かっているが、そろそろ座ってどうにかしたかった。ヒッチは名前と共に臨時に設置されたテントの中の椅子に腰を掛け早速靴を脱いだ。

「あーもう最悪、」
「靴擦れしてますね。絆創膏もらってきた方がいいんじゃないですか?」
「そうしよっかなぁ。あんたもう大丈夫なの?」
「貧血っぽかっただけなので、座ってれば大丈夫です。ついでにお水を買ってきていただければ嬉しいんですけれど」
「わかった。じゃあ待っててよ」

ヒッチはリヴァイに見張れと言われていない。ついてやってくれ、と言われたのだ。絆創膏をもらうためにテントの外に出たヒッチを見送った後、名前はテーブルの上に置いてあるスマートフォンに手を伸ばした。不用心なことにロックはかかっていない。名前は記憶を頼りに数字を押し、彼が出るのを待った。


■ ■ ■


テントで休んでいる名前の様子を見に来たリヴァイは彼女がミネラルウォーターを口に含んでいるのを見て安心したような表情を浮かべた。元気そうだ、と。

「名前よ、俺とお前で直接あの管理室の扉を叩くことになった」
「よくエルヴィンさんが許可しましたね」
「…あいつからの提案だ」

エルヴィンは名前が自分を犠牲にしてでもリヴァイを守ることに賭けたのだろうか。そもそもリヴァイが万が一の時に名前を庇うとは思わなかったのだろうか。なんとなく面白くなくなった名前は無言でリヴァイから差し出された防弾チョッキを受け取った。

「まあ、あいつのことだ。いきなり撃ってくるようなことはしないだろ」
「その可能性の方が高い気もしますけどね」

名前とリヴァイがテントから出れば、道を開けた機動隊員がそこにいた。防弾チョッキだけでは心許なく、欲を言えば盾を一本借りたいと怖気つく名前だったが、前を歩くリヴァイは名前の心情を汲み取ることなく扉を叩いて見せた。

「おい、ケニー。俺だ、会いに来てやったぞ」
「リヴァイか。入れよ、お前に話があるんだ」

扉がゆっくり空いたと思ったら飛び出してきた腕にリヴァイは引きずられた。反射的に名前の手首を掴んだこともあり、二人して管理室の床に倒れこむことになった。状況判断ができない名前は目を白黒させながら鍵のかけられた扉を睨んだ。

「お前ら仲良いな。また一緒なのか」
「「……」」

名前はケニーの言葉に応えることはなく、その後ろに見えるアニの姿に気を取られた。咄嗟に駆け寄ろうとする名前をリヴァイは羽交い締めにするように抑え込む。その様子に、こいつらは何をしに来たのだとケニーは髪を掻きあげた。その隣でやはり呆れたようにアニも名前を見ていた。

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