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ケニー・アッカーマンが人質を取って病院に立てこもっているという無線内容にリヴァイが顔色を変え、その人質がアニ・レオンハートだという追加報告に名前が勢い良く顔をあげて目を剥いた。リヴァイのスマートフォンが着信を告げ、間髪入れずにリヴァイは応答した。

「エルヴィン。何が起きた?」
「無線内容のとおりさ。だが厄介なことに、脱出用のヘリコプターを要求されている」
「場所は?」
「……シーナ病院だ。お前もとりあえず来てくれ。名前も居るんだろう?ちゃんと連れて来い」

リヴァイはパーキングにしていたギアをドライブに入れ、ハンドブレーキを解除した。どうしてアニとケニーが一緒にいるのかもわからないし、そもそもどうしてシーナ病院に行ったのかもわからない。だが、現在が非常にまずい状態であることは分かった。マスメディアがこの件を嗅ぎつけてしまえば、内密の処理は難しくなるうえ、警察が強硬手段をとる可能性が高まる。特殊部隊が投入されてしまうとアニの生命にも関わる。

「っていうか、エルヴィンさんは私があなたと一緒にいることを知らなかったんですか?」
「俺が勝手に連れだしたからな。他所にバレたら懲戒免職だろうな」
「無許可で!?」
「ああ、俺が、勝手にお前を出した」

正気を疑うような行動をするリヴァイを名前は理解できなかった。シーナ病院にむけて走りだすリヴァイに名前はもう何も言わなかった。リヴァイの車がシーナ病院の駐車場に止まると、すぐにハンジが駆け寄ってきた。助手席から降りてくる名前に、怒ったような視線を向ける。まるで名前がリヴァイを唆して牢から出させたかのような扱いだ。

「状況は?」
「屋上の非常時管理室に籠城しているよ。ここはドクターヘリが止まるからね、そこに脱出用のヘリを用意させろとのことだ」
「それだけか?ロッドについては何もないのか?」
「…君を交渉人にするように、って」

リヴァイは交渉の経験はない。元々どちらかと言うと口下手に分類されることもあって、専門の知識すらない。やりたくないと表情に出したリヴァイだったが、ハンジもやらせたくないだろうと思い八つ当たりはやめた。名前は駐車場から屋上を見上げる。ヘリでどこへ行くつもりなのだろう。

「ロッドはどうなった?」
「あと二時間で踏み込む予定だったが、この事態だからどうなるか……でも、見張りの人数は増やした。ネズミ一匹通さないよ」
「ああ、絶対に逃すな。で、問題はこっちか」

テロの首謀者が実行犯を人質に取っているという現状にリヴァイもハンジも困り切った。世紀の大犯罪者達だ。なるべくならば、生かして捕らえたい。名前もそわそわと落ち着かない様子でリヴァイの顔色を伺っていた。そんな名前の手をモブリットはつかみ、手錠を掛けた。

「ちょっと……!」
「あなたは重要参考人ですし、そもそもここにいることがおかしいんです」
「それはそうなんだけど、痛いってば!」

がちゃがちゃと手錠を鳴らす名前の腕をそれでもモブリットは離さない。懐から鍵を取り出そうとしたリヴァイをハンジは止めた。

「リヴァイ、君の行動に上はお冠だよ。コレ以上勝手したら、懲戒免職も冗談じゃなくなるよ」
「心配してくれるのは有難いが、俺はもう警察に残る気はない。最後の事件に、悔いの残らないように動くつもりだ」
「……元々わかり辛いやつだけど、今は本当に君の気持ちがわからないよ」

ハンジの言葉に答えずにリヴァイは屋上を見上げた。南中した太陽がリヴァイの目を刺す。名前は足元の影を見つめていた視線をリヴァイへと上げ、そしてモブリットへと移した。モブリットは静かなため息を吐いて名前の手錠を外した。

「で?指揮は誰が取っている?」
「ナイルだ。公安の不祥事だから。表立って責任を負っていることからあいつが指名されているよ」
「エルヴィンは何だって?」
「リヴァイを交渉人に立てて、私たちを介入させるつもりらしい」
「了解した。名前、来い」
「会議室は4階の院長室だよ」

ハンジの言葉にリヴァイは手をひらりと振って答えた。名前は違和感の残る手首を摩りながら彼の小柄な割に広い背中を見ながら歩いた。リヴァイと共に会議室に行くことで、ハンジと同じような意味をこめた視線をエルヴィンから送られるのかと思うと鬱々とした気分になった。そして名前の予想はみごと的中した。

「……エルヴィン、あまり名前を虐めるな」
「お前からそんな言葉が出るとはね……妬いてしまうよ」
「冗談はそのくらいにしておけ。で、俺は何をすればいい?」
「ナイルはお前を屋上に連れて来いとしか言われていないようだ。ひとまず交渉人としてお前を連れて行く。名前も、どうせ連れて行くのだろう?」
「ああ。こいつは人質の女に用があるからな」
「彼女のスマートフォン等はこちらで預からせてもらう」

名前が口を開く間もなくトントン拍子で話は進んでいった。ケニー相手に説得は無意味だ。要求に応じるふりをして隙をついて拘束するしかない。そう結論つけたエルヴィンとリヴァイの会話から意識を逸らした名前は窓の下の川を見下ろした。

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