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ケニーは名前とリヴァイを見比べた。そして顎に手を当てて首をかしげてみせる。その小馬鹿にしたような素振りに名前の纏う雰囲気が殺気立った。

「わからねェ、わからねえなあ。どうしてお前らが揃ってここに居るのか、俺には見当もつかねえなあ」
「彼は私の連れですよ。私は、貴方に会いに来たんですよ、ケニーさん」
「それもわからねえなあ。お前が俺に会おうと思えたことが信じられねえ。また腕をへし折られに来たのか?それともあの時の痛みが忘れられなくて来ちまったのか?」
「さあ、なんのことでしょう」

ケニーの視線が名前の四肢を這った。手に持っていた札束で名前の胸を叩く。その行動にリヴァイが動こうとしたのを名前が必死に止めた。喧嘩をさせるためにつれてきたわけではないのだ。屈辱に耐える名前の顔を覗きこんだケニーは厭らしい笑みを浮かべたまま名前の頬に手を添えた。息が触れ合う距離でケニーは囁く。

「で?何の用だ?」
「ここに、アニ・レオンハートがいるでしょう。彼女に会わせてほしいんです」
「アニ・レオンハート……確かにいたな。あいつは強かった。並みの男じゃ相手にならないほどにな。それに見た目も悪くない。いい奴だったよ」
「彼女はどこですか?」
「もうここにはいねえ。残念だったな」

ケニーは名前から離れた。踵を返して中央のリングに行こうとするケニーの手首を名前が掴む。冷たい視線に射抜かれようと、名前は手を離さなかった。

「まだここにいるはずですよ。あなたが商売道具を簡単に手放すわけがありませんもの」
「死んじまったよあいつは。一昨日だったか?昨日だったか?」

ケニーは名前の腰を引き寄せた。まつげに縁取られた目を覗きこむようにしながら、ゆっくりと言葉を紡ぐ。

「ここを、嗅ぎまわるなと、警告したよな?」
「ええ」
「二度目は無いって分かっていたよな?」
「私はこの場所自体を嗅ぎまわっているわけじゃありません。それに、この話はあなたにとってもオイシイ話になるはずですよ」

ぱっとケニーが名前を離すと、名前はふらつくように距離を取った。そしてケニーはついてこい、と合図をする。名前はリヴァイの目を見て頷き、そしてケニーの後を追った。ついて行った先は体育館のようになっているフロアの舞台袖だった。ケニーはカーテンを閉め、無造作に置かれた椅子に腰掛けた。

「おいしい話とやらを聞こうか。まあ、座れよ。ドチビもな」
「……」
「名前、話せ」
「ウォール街開発の話はもうご存知ですよね」
「ああ。有名な噂話だからな」
「それを推し進めているのがアニの飼い主です。一昨日のマリア銀行爆破もアニ達の仕業です。アニを捕まえないと、ここも間違いなく潰されるでしょう。アニを雇っている人間はこの街を潰すつもりです」
「なるほどな。確かにアニは一昨日の試合には来なかったし、今日も来てねぇ」

ケニーは顎鬚をなでた。名前の背後で睨みをきかせるリヴァイを見て鼻で笑う。どうして警察のリヴァイと情報屋が揃ってこんなところに来ているのかと思えば、先日の事件を追っているだけらしい。

「俺が、アニ達とグルだったらどうするつもりだ?」
「それも確かめに来たんですよ」

名前はシャツのボタンを上から外し始めた。彼女の突然の行為にリヴァイは目を向いた。上から三つほどボタンを外した名前は下着の中に手を入れ、白い数十グラムの粘度のような塊を取り出した。先ほどのボディチェックでは見逃されたそれはジャンの店で買ったものだった。

「それで、どうするつもりだ?」
「ここは幸いなことに地下なので、すぐに埋まるでしょう。もしも、貴方がアニ達とグルならば、私は貴方を消すことを選びます。私の経験上、一番やっかいなのは貴方ですから」
「……なるほどな、悪くない手だ」

サシでの勝負ならば圧倒的にケニーの方が有利だが、建物ごと埋めると宣言されてしまえばうかつに手を出せない。どうすれば起爆するのかもわからない状況では、ケニーが不利だった。それに、名前ならばやりかねない。名前にはケニーを殺すだけの理由があったし、ケニーも名前に殺意を抱かれるだけのことはやった。

「あの女の居場所を教えてやろう。あいつはトロスト区のすぐ側のマンションに住んでいる。あとは自分で探せ」

ケニーは葉巻に火をつけた。これ以上話す気はないだろうとリヴァイは判断した。名前の腕を掴み、カーテンの外へでていく。熱気が二人の頬をなでた。リングの上では先ほど勝利したはずの男がコーナーでへたり込んでいる。甲高い金属音に俯いていた名前は顔を上げた。

「チェーンソー……」
「なんでもありだな、ここは」
「本当に」
 
外に出て新鮮な空気を吸った後、名前はフェンスに凭れ掛かるように座り込んだ。リヴァイは顔を覆った名前の手を取った。名前がケニーに会った時、その手が小さく震えているのがわかった。リヴァイは名前の肩をそっと抱いた。

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