35


地上の空気を肺に入れ、大きく深呼吸する名前の肩を労わるように叩き、その隣に寄り添いながら、リヴァイはぽつりぽつりと自分の事を話し始めた。

「俺は昔、あいつと暮らしていた」
「………」
「まだガキの頃だ。あいつは俺の叔父にあたる」
「えっ?家族なんですか!?」
「血の繋がりはあるな……ここに移転する前の闘技場に俺もいた」
「凄い人生ですね。あなたがエルヴィン・スミスにヘッドハンティングされたのは知っていましたけど、昔ここに居たとは思いませんでした」
「一切出てこなかっただろう?俺もエルヴィンも隠滅に全力を注いだからな」

冗談まじりでリヴァイは言う。顔を上げた名前はどこかリヴァイに親近感をいだけるようになった。警察だ犯罪者だと距離を置いていたが、どうやら同じ穴の狢だったらしい。

「トロスト区に行くか?」
「はい」

歩いて二十分もかからないだろうと考えた名前達はタクシーを拾うことなく歩き始めた。ただトロスト区を歩き回っても仕方がない。名前は電話帳からミーナの情報を呼び出した。

「………………出ない」
「アニがケニーに雇われてあの闘技場にいるなら、あいつが手配した家に居るだろう。俺に何件か心当たりがある」
「本当ですか?」
「あぁ。そこにいるという確証はないが、手がかりがないよりかはマシだ」

この男もあの闘技場で人を殺して金をもらっていたのかもしれない。ふと名前は思った。闘技場にいたということはそういうことだ。

「どうした?」
「いや、なんでもありません」

マフラーを引き上げ、名前はヒールを鳴らして歩く。リヴァイはスマートフォンの地図アプリを開きながら歩いていた。迷いなく歩くリヴァイの足が止まったのは信号でもマンションの前でもなかった。ただの自動販売機の前で止まったと思ったら険しい表情で耳にスマートフォンを当てた。名前も立ち止まりどうしたのかと疑問を表情に出した。

「…エルヴィンか、あぁ……今エルドからのメッセージを見た。駅前だろ?………わかった。すぐ行く」

リヴァイは隣に立つ名前に向き直った。名前のスマートフォンがメッセージの受信によって震えている。それを無視して名前はリヴァイの言葉を待った。

「ウォール駅の交番で爆発物が爆発した」
「は?」
「お前の仕業ではないな?」
「なんで私が交番を爆破しなきゃならないんですか」
「だろうな。エルヴィンに聞かれたからな、念のためだ」
「現場にいきますか?」
「ああ………」

リヴァイは迷った。現場に行かなければならないが、目を離すわけにはいかない名前をどうしようか。名前は肩を竦めて見せた。

「私も行きますよ。なにかわかるかもしれないし」
「そもそもお前が現場に入れるのかという疑問がある」
「…それもそうですね。じゃあ近くの喫茶店で待っているので終わったら声かけてください」
「…………いや、連れて行く。ウォール駅でスーツに着替えろ」

大通りに出てタクシーを捕まえたリヴァイはウォール駅にあるデパートを指定した。デパートにつくと一番最初に目に付いたブランド店に名前を引っ張った。

「サイズが合うか着てこい」
「は?え?」
「こんなことで時間を食いたくない。早くしろ」

リヴァイが渡してきたスーツに腕を通した。元々中はワイシャツだ。ジャケットとスカートに履きかえればサイズに違和感はなかった。もともと、タイツを履いていたこともあって、名前が試着室を出るとリヴァイは店員を呼び、彼女を指差した。

「これをもらおう。このまま着ていく。タグだけ取ってくれ」
「はい」
「会計はカードで頼む」

名前はもう口を挟まなかった。リヴァイが支払ったスーツを着込み、タクシーに乗り込んだ後も無言だった。

「大丈夫ですか?」
「何がだ」
「ウォール駅前の交番ってあなたもよく顔を出していたじゃないですか。知り合いが勤務しているんでしょう?」
「重体らしい」
「………そうですか」

リヴァイの声は落ち着いているが、おそらく内心は穏やかではないだろう。赤い光がタクシーの窓ガラスに反射するのを見て名前も目を細めた。パトカーと救急車と消防車。野次馬もいる。タクシーから降りたリヴァイは迷うことなく交番へ進んだ。名前はリヴァイの影に隠れるように立ち、そっとその背中を追う。

「エルヴィン」
「リヴァイ。遅かったな。中にいた警官二人からは事情聴取できそうにない。とりあえずは現場検証だ」
「威力は…見ての通りか」

すすまみれになった交番を前にリヴァイは口を閉ざした。中を覗くと状況はもっと酷いもので、一面火になめられた後が見て取れた。中を覗こうとする名前の肩にエルヴィンの手がかかった。ぎこちなく振り返った名前にエルヴィンは表情の読めない顔で話しかけた。

「私の配下に、君の顔はなかったように思える」
「初めまして。名前です」
「君が名前か。そうか…リヴァイから話は聞いていたよ」

中を一通り見終わったリヴァイが見たのはエルヴィンと名前が難しい表情で睨み合っているような姿だった。側によるリヴァイにエルヴィンは厳しい視線を向けたが、名前を連れてきたことに対して特に咎めるようなことは言わなかった。

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