28

  
エルヴィンから電話を受けたリヴァイのスマートフォンに耳を近づけ、名前は会話を傾聴していた。電話を切るなり、二人で目を見合わせる。謎が解けた。名前の命を狙うならば、公安官を始末したように自殺に見せかければいい。どうしてここまで派手にやる必要があったのかと疑念を抱いていたが、法案を通し、世論を煽るためだったのかと腑に落ちた。

「レイス氏は、次にどこを狙うと思う?」
「彼がテロを企てていたことは初めて知ったから見当もつかないわ」
「だろうな。名前、お前歩いても大丈夫なのか?」
「走れはしないけど」
「そうか。あと、お前の銃だが、とりあえず俺が預かっている。だが、いつまでも俺のベッドの下に隠しているわけにはいかない」

見当たらないと思っていたらそんな場所にあったのかと名前はベッドの下をのぞき込んだ。なるほど、目を凝らすと無造作に床に落ちている。眉をしかめながら乱暴にベッドの下に銃を押し込むリヴァイの姿が容易に想像できた。名前は屈み、銃に腕を伸ばす。指先で引き寄せるように銃を手繰り寄せた。

「これは私が処理しておくわ」
「…仕方ない。目を瞑ろう」
「私もサシャと一緒で余罪なら腐るほど出てくる人間だからね」

名前は意地悪く笑った。銃を自分のズボンのポケットに押し込み、反対の手で商売道具であるスマートフォンを取り出した。マルコもジャンも頼れない。サシャとコニーも巻き込めない。ユミルとクリスタはどこかに行ってしまった。だが、名前にはまだ伝手があった。

「私は私の方法であなたに協力するわ。だから、そのままぎゅっと目をつむっていてね」
「…お前がそれを望むのなら、俺はそれに従おう」

リヴァイは薄いシャツの下に透ける包帯を見ながらそう言った。止血が上手く行ったらしく血は滲んでいない。朝食のあと痛み止めを飲み干した名前に痛々しい気分になったのが、また蘇る。どうにも不器用な女なのだろう。リヴァイは名前のことをあまり知らない。リヴァイにとって名前は見合う金を払えば情報を持ってくる、言ってしまえば都合のいい人間だった。

「名前、俺はお前からの情報をいつも信用してきた。それはお前の情報で犯人を検挙してきた実績があるからだ。だが、俺はお前のことをあまり知らない」
「そうでしょうね。お互いあまり余計なな話は全くしないから。それに、警官と犯罪者が関わってること自体おかしいのよ」

そういうことが言いたいのではないとリヴァイは内心で舌打ちをした。この男、存外喋る量は多いものの、相手に自分の心情を伝えるのは壊滅的に苦手だ。名前もリヴァイが一体何を言いたいのか分からずに怪訝そうである。どうしたのいきなり、と笑いながら問いかけてきた。

「いや、ただもう少しお前を知りたいと思っただけだ」

リヴァイのさり気なくつぶやいた言葉に名前の顔が思わず熱くなった。リヴァイに見られぬようさり気なく顔をそむけ、背後の時計を見る素振りをする。きっとリヴァイに深い意味は無いのだろう。リヴァイの部屋の時計が正午を告げた。


■ ■ ■


名前と連絡が取れないと言い出したのはミカサだった。アルミンに言われて家から出ないようにしていたエレン達だが、落ち着かないエレンに痺れを切らせたミカサが事件の情報を集めるべく名前のスマートフォンに着信を残し、メッセージを送っていたものの一向に返信が無い。

「もう半日も連絡が来ない。おかしい」
「お前、名前さんと仲良かったっけ」
「SNSでたまに連絡は取っている。そうじゃなくても名前さんがデバイスに触れずに生活できると思えない」
「お前も利用されているんじゃないのか?」
「そういう言い方はやめて」

ミカサの口調が責めるものに変わった。その言い草にエレンはむっとする。二人を宥めるようにアルミンはホットミルクを注いだマグカップをテーブルに置いた。甘い香りがエレンとミカサを落ち着ける。

「名前さんと連絡が取れないってことは、仕事中なんじゃない?」
「だから、その仕事中に連絡が取れないことがおかしい」
「あの人、スパイごっこみたいに潜入している時があるじゃないか。まあ、名前さんの変装っていつもバレバレだけど。それで身元が特定できるデバイスは置いているとか」
「でも、連絡がとれないのはおかしい」

ミカサの勘がおかしいと言っているのだろう。焦れたようにミカサは発信記録をアルミンに見せる。三時間に一回は発信しているようだ。

「名前さんに何かあったって考えるなら、この事件が関係しているだろうしね。彼女の性格からしてこの件に首を突っ込まないはずがないだろうし」
 
テレビでは相変わらず、マリア銀行のテロについてやっている。大量に寄せられた目撃情報から警察は犯人の捜索を進めているようだ。三人組という言葉にビクビクとするが、生憎エレン達は銀行にロケット砲を打ち込んではいない。自衛隊からロケット砲が盗まれたという情報が流れていないことから、密輸された可能性が高いとアナウンサーが物知りげに喋りだしたところで、ミカサはテレビの電源を落とした。

prev next
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -