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リヴァイから渡された捜査資料を名前は何度も見返し、リヴァイは名前から渡された脱税についての資料を眺めていた。名前は手に持っていた資料を机の上に置き、両手を上に伸ばし、肩の筋肉を解した。そしてリヴァイのスマートフォンを指さし、点滅を告げた。

「私の荷物を取りに行きたいんですが」
「荷物?」
「住んでいたアパートが放火されて私の部屋も焼けてしまったので、ビジネスホテルを転々としていたんです」
「放火か……まあいい、それで、荷物とやらはどこにある?」
「駅のコインロッカーにあります」
「取ってきてやろうか?」
「え……いや、自分で行きます」

幸い歩くことに支障は無い。いつまでも家の中にいたのでは気分も滅入ってしまう。名前は自分で取りに行くつもりだった。なぜリヴァイが行くのかと顔で問いかける名前に、リヴァイは眉根をぎゅっと寄せた。

「お前、自分が重要参考人だってこと分かっているのか?」
「逃げませんよ?」
「俺がお前から目を離すことがそもそも問題なんだ」
「……じゃあ一緒に行きましょう。服を貸してください」

名前は部屋の隅にかけられているリヴァイのコートを指さしてみせた。名前の服はナイフによってところどころ割かれていて、リヴァイがとっくのうちに処理してしまった。幸いなことに二人の身長差はほぼ無い。今でもリヴァイのパジャマを名前は借りている。もしかしたら、名前のほうが高いかもしれない。リヴァイもそれは薄々察していた。

「セーターとGパンでいいだろ」
「ベルトが欲しいですね」

腰回りの太さは違う。恐らくそのままだとずり落ちてしまうだろう。リヴァイはクローゼットから適当な服を見繕って名前に渡した。隣の部屋で着替えるように言えば、彼女は大人しく服を受け取って部屋を移動した。その間にリヴァイは点滅していた自分のスマートフォンを確認することにした。着信はファーランからだった。

「もしもし、俺だ」
「リヴァイ!すまん、逃げられた」
「どういうことだ?」
「俺がパトロールに行ってる隙にやられた。本当にすまん」
「…まあ、もう大丈夫だ。手間かけて悪いな」
「えっ、そうなのか?まあお前が困らないならいいんだが」
「また掛け直す」

リヴァイは通話を切り、そのままの勢いで名前が着替えていた部屋の扉を勢いよく開けた。セーターに腕を通そうとしていた名前は目を見開いてリヴァイを咎めた。

「ちょっと!」
「サシャを逃すように手配したのはお前か?」
「知りませんよ」

不機嫌そうに名前は言う。傷口に触らぬようにと、ゆっくりセーターを着た名前は睨むリヴァイに眉をあげた。

「そういえばよくもスタングレネードを投げてくれたな」
「あなた相手に私が近距離戦をする方が頭おかしいでしょう。それに手持ちがそれしかなくて」

手持ちが手榴弾しかないとはどんな状況だ。リヴァイは詰問を諦めた。リヴァイの抱える怒りはサシャを逃がされたことに対してはなく、それを名前の口から知らされなかったことに対してだ。絶対に一枚噛んでいると確信するリヴァイだが、名前はしらを切り続けた。

「そういえば、どこの駅のコインロッカーに入れたんだ?」
「ウォール駅です」

ウォール駅ならリヴァイの家の最寄駅からも直ぐだ。どうやら名前は電車で行くつもりらしい。財布をジーンズのポケットに入れた名前にリヴァイはマスクを差し出した。今の状況でむやみに顔は晒せない。リヴァイも彼女と同じようにマスクをつけた。名前にはさらにマフラーを巻かせ、帽子を被らせる。目しか見えない鏡に映った自分に、まるで不審者だと名前は思った。

■ ■ ■


レポートの提出期限が今日までだったとエレンは大学に行っていた。優等生のアルミンとミカサは先週のうちに提出してしまっている。

「……あのロッカーってことは名前さんだよな」

今は治安が悪いからと心配して、エレンについていくと言い張ったミカサを置いてきたことをエレンは後悔した。ウォール駅の中の自動販売機の横の青いコインロッカーの一番左端の一番下。引っ越し用のダンボールも余裕で入るほどの大きなロッカーは名前がいつも何かを入れている所である。マフラーやら帽子やらで怪しいのがまた名前っぽい。エレンは名前に近寄る。

「名前さ…」

エレンの手が名前の肩に触れる前に、エレンの腕はリヴァイの手によって止められていた。名前を庇うようにエレンとの間に身体を捩じ入れたリヴァイに、名前は勢いよく振り返る。沈黙の後、エレン!という名前の驚いた高い声がエレンの耳に刺さった。

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