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警視総監として緊急閣議に呼ばれたピクシスは長時間座っていたせいで筋肉の凝りを全身に感じていた。部屋の外で待っていたアンカが彼に小さな紙を手渡した。ピクシスは中身を一瞥し、頷く。エルヴィンからのものだった。

「お車を用意してあります」
「ああ、すまんな」

有能な秘書はピクシスの後ろを歩きながら携帯電話で指示を出していた。現在、国の主要施設は緊張状態だ。先ほどの閣議ではまだ治安出勤命令は出されなかった。だが、今はリーチだ。次にどこかでテロ行為が認められたら、国家安全保障会議を設立して、非常事態宣言が出されるだろう。そうなれば漏れ無く警察庁に治安出勤命令がくだされる。今、ピクシスがしなければならないのは、次のテロ行為を事前に防ぐことだ。黒塗りの車の後部座席の扉が開かれる。中に座って待っていたのはエルヴィンだった。

「お疲れ様です」
「ああ、そなたもな。捜査本部のほうはどうじゃ?」
「マリア署に本部を置き、合同で捜査にあたっています。リヴァイのみは単独で動かしておりますどうやら彼にしかない伝手があるようで」
「ああ、報告書は読んだ。本部の見解の前にリヴァイの見解を聞こう」
「後ろで糸を引いているのはレイス元防衛大臣だそうです。外国人の傭兵を雇って自らの汚職を隠蔽しようとしたらしく、公安官三人は毒殺、公安官に接触した女もマリア銀行にいました」
「ほぉ」

ピクシスは自身の禿げ上がった頭をなでた。窓の外に人影は少ない。みな外出を避けているのだろう。無理もない。マリア銀行では一般人が多く犠牲になってしまった。

「その女の身柄は?」
「リヴァイの情報提供者だったようで、彼が保護しています」
「情報提供者だったのか」
「ウォール街で有名な情報屋です。名前と呼ばれています」
「昔、わしの秘書に同じ名前の女性がいたのぉ」

偶然かもしれんがとピクシスは笑う。今ではどうでもいいことだ。エルヴィンは硬い表情を崩さない。ピクシスは小さく息をついた。

「既存の法律では重火器を使用する犯罪者を想定していない。次にまたいつこのような事件が起こるかわからない。そのためには、有事の際に各省庁を跨いで対処する調整機関をつくるべきである」
「は?」
「先ほどの会議でレイス氏がそういっておった。もともと奴はタカ派だからのぉ」

エルヴィンの頭のなかで疑念が湧き上がる。ピクシスも同じことを感じたからこそ、エルヴィンにレイス氏の発言を告げたのだろう。

「……レイス氏はこの機関を作るためにマリア銀行を襲撃させたとお考えですか?確かにこのようなことがあったら民意はそちらに傾くでしょうが…」
「わしがどう思おうとどうでもいいこじゃ。お前がそう考えたのなら、それが正しいのか正しくないのを調べるのがお前の仕事じゃろう」
「失礼いたしました」

エルヴィンはピクシスに頭を下げた。タイミングよく、車は警察庁に止まった。外から扉を開かれ、降りていくピクシスはエルヴィンを振り返った。

「まあ、このような法案は簡単に通りはせん。第一手は打たれたものの、絶対に二手目は後手に周ることのないように頼むぞ」
「はい」

ピクシスの目は真剣だった。アンカに促され、警察庁内に消えていくピクシスを見送り、マリア署へと発車した車のなかでエルヴィンはリヴァイに電話をかけた。ツーコールで彼は出る。その後ろでテレビのような音声が聞こえることから、彼は自宅にいるのだと判断した。

「リヴァイ、ピクシス警視総監から面白い話が聞けた」
「ほぉ、なんだ」
「レイス氏が、有事の際に各省庁を跨いで対処する調整機関をつくるべきだと主張しているらしい」
「……なるほどな」
「後、お前が持って行きたスペツナズナイフだが、指紋は検出されなかったよ。血液は検出されたらしいが」
「多分、それは、名前のだ。公園の方は?」
「銃弾と複数の血液が確認された。今ハンジが調べている。結果が分かり次第、お前に直接報告がいくだろう」
「ああ、わかった」

エルヴィンは電話を切った。本部は、マリア銀行襲撃と公園での発砲事件に関連性ありという見解を示している。発砲事件は仲間割れだろうと意見が固まった。リヴァイが現場近くの用水路で発見したと偽って提出したスペツナズナイフのおかげで、ソビエト連邦の特殊人部部隊崩れの人間の可能性が高いとの意見も発表された。実行犯の方は此方で追おう。だが、背後で糸をひく人間まで炙りだされるかと言われれば、エルヴィンの力でも難しい。まずは実行犯だ、とエルヴィンは気合を入れた。

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