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マリア銀行を襲い、ユミルと名前を襲った犯人達は、また名前を襲いに来る可能性が高い。脅しならば充分すぎるほどだが、名前がまた動きを見せれば必ず潰しに来るだろう。新聞を見ながら、名前はどうやったら実行犯を捕まえられるかを考えていた。

「マリア銀行爆破のせいで緊急閣議が開かれるみたいだな」
「レイス氏も勿論参加するんでしょうね」
「あぁ、ついでにピクシスのジジィも招集されているらしい。テロの可能性が高いってことで捜査を進めるだろうからな」

名前は煮え切らない顔をした。脱税の証拠隠滅ならば、宝石を別の場所に隠せばいい。名前の命を狙うならば、公安官を始末したように自殺に見せかければいい。どうしてここまで派手にやる必要があったのか。名前は腑に落ちる理由を探していた。リヴァイも同じようだ。

「会議の様子は俺が聞いてくる」
「いや、私も行くわ。彼とは面識もあるし」
「お前、さっき自分でなんて言ったか忘れたのか?」
「……」
「ここで大人しくしておけ。連絡は必ずいれる」

リヴァイは名前の肩を押して布団へと戻した。発熱もしている。この状態で共に来られても足手まといになるだけだ。名前もそれはわかっている。少しでも早く回復するのが、今の彼女の仕事だ。名前が渋々といった様子で布団を顔まで引き上げる。リヴァイは名前が眠りに入ったのを見届けてから家を出た。


■ ■ ■


シーナ病院に戻ったリヴァイは未だ意識不明の部下たちの顔を一つ一つ見て回った。彼が病室を出ると、廊下に立っていたエルヴィンが深夜に相応しい疲れた顔をみせた。

「ハンジから話は聞いたよ。明日の明朝、捜査本部を設ける。マリア署と警視庁の合同捜査だ」
「あぁ。捜査方針は?」
「テロだ。重要関係者として彼女の名前を挙げる。総力をあげて彼女を任意同行で引っ張ることを最優先になる」
「……テロとして実行犯を追うのは賛成だ」
「お前、彼女の居場所を知っているのか?」

エルヴィンの言葉に咎めるような響きはなかった。いつものように淡々と事実を確認しているだけだ。リヴァイは頷いた。

「あいつを信頼している」
「ならばお前が聞き出せ。この非常事態に時間が惜しい」
「場所を変えよう。どこかの一室を借りれないか?」
「院内は無理だ。部屋という部屋は怪我人で埋まっている。二階なんか廊下まであふれていた」
「外に出よう。どうせ、車で来ているんだろう?」

エルヴィンは車のキーをポケットの中から取り出し、指で回して見せた。決まりだ。リヴァイはエルヴィンと共に駐車場に止めてあるエルヴィンの自車に乗り込んだ。助手席の扉を閉め、一息吐く。エルヴィンも疲れ切ったように手のひらで顔を撫でた。

「話してくれ」
「警察官三名を毒殺したのも、マリア銀行を襲ったのも、レイス氏の手の者だと名前は言っている」
「レイス氏?あのロッド・レイス氏か?」
「元防衛大臣のロッド・レイス氏だ」

エルヴィンはまさかといったような表情を見せた。リヴァイだって信じ難かった。

「ナイルに連絡を取れ。殺された三人とレイス氏のつながりを調べさせてくれ」
「やってみよう」

エルヴィンは頤に指を当て、計略を巡らせているのだろう。問題は実行犯の方だ。彼らを野放しにしておくわけにはいかない。名前も詳しいことはわからないようだった。しかし、手がかりならばある。名前の身体に刺さっていたスペッツナイフだ。

「実行犯の方だが、おそらくロシア系の傭兵崩れだ」
「……根拠は?」
「名前が実行犯と同一人物とみられるやつらに襲われた。あいつがスペツナズナイフを身体に刺したまま駆け込んできた」
「名前、か。リヴァイ、お前の情報の信憑性が高いのは知っているが、私はまだ名前という女を信用しているわけではない。もしかしたら、その女もグルで我々を欺こうとしているのかもしれない。そう考えると合同捜査で確たる証拠がないまま捜査員を動かすことはできない。唯一自由に動かせるリヴァイ班は、お前以外稼働していない」
「わかっている。俺が個人的に動く」
「そうしてくれ。こっちはこっちで進めよう」

すでに監視カメラの映像を元に犯人の割り出しを図っている。過去に逮捕歴があるものならば直ぐに一致し、連絡が来るだろう。今できることは待つことだけだ。無言の続く車内で、沈黙を裂くようにエルヴィンがリヴァイに尋ねた。

「彼女が無事でよかったな」
「あぁ、そうだな」

リヴァイの目は明るく光る病院を見つめている。仮眠をとるか、とエルヴィンは目を閉じた。

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