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華奢な手首を握りしめ、リヴァイは無表情で名前と視線を絡み合わせた。今、リヴァイの大切な部下たちは病院で生死を彷徨っている。彼らは警察官だ。犯罪に立ち向かうのが仕事だ。最前線で戦う覚悟はできていた。だが、リヴァイには彼らの生死を「仕方ない」で片付けるだけの器はない。

「話してもらおうか。もう俺も当事者だ……先ほど、俺の同僚から連絡があった。そいつは、先日拳銃自殺したと思われていた警察官の体内から毒物が見つかったと言った。この報告はすぐ上に行く。明日にでも公安と合同で正式に捜査チームが組まれるだろう。もちろん指揮は俺だ」
「優秀なんですね。あなたも、その人も」
「俺達が探る前に嗅ぎつけていたお前もな。情報を寄越せ。俺に協力しろ」

リヴァイは名前の手首を握る手を緩めた。名前は手のひらのなかのUSBを反対側の指でつまみ、リヴァイの前で揺らした。この情報を握ってから、名前の命は狙われるようになってしまった。

「私はこれを知ってからもう後には引けなくなりました。でも、後に引かないのは、私になにも残っていないからです。失うものはなにもない人間ほど強いものは無いっていうのが私の持論なので」
「……」
「リヴァイさん、あなたは私とは違います。だから、巻き込みたくなかった」
「俺は警察官だ。犯罪を暴き、犯人の手に手錠をかけてしかるべき罪を受けさせるために働くのが警察官だ」

私あなたのそういうところが好きですよ、と名前はつぶやいた。リヴァイには人を引きつける魅力がある。闇の中で方向を示してくれる明かりのようなカリスマ性とは違うが、リヴァイは間違いないと自分を肯定してくれるような力強さがある。名前のなかの迷いはもはやなかった。リヴァイが先ほどまで弄っていたパソコンを引き寄せ、USBを差し込む。無理矢理抜いたが、特に異常は無いようだ。それだけ確認して、名前はパソコンを閉じた。

「シガンシナの裏界隈開発の話が出た時に、小競り合いが多発したのを覚えていますか?」
「あぁ、あの時期はそのせいでクソ忙しかったからな」
「シガンシナ抗争の始まりは、開発反対を掲げて妨害工作をしていた指定暴力団事務所に爆発物が届けられたところから始まりました」

リヴァイは組織犯罪対策部とは関わりが薄いせいか、初耳だった。名前も被害者の依頼を受けて調べたものの一向に尻尾は掴めない。面子をかけた彼らが出た行動は、疑わしきを徹底的に罰するものだった。街の雰囲気は攻撃的になり、その雰囲気に煽られるように各所で揉め事が起こる。リヴァイ達警察は彼らを徹底的に取り締まることによって事態を沈静化させた。

「シガンシナがひと段落ついてからも私は依頼を受けて事件について調べていたんですが」
「……」
「そこで浮上したのが、レイス大臣です。彼の雇う傭兵が事務所を襲撃した可能性が高くなった、って言ったら信じますか?」
「傭兵?殺し屋?バカ言え、政治家が直接雇った奴が大きな動きをするものか。大抵ああいう奴らは、もっと間接的に物事を動かすのが定石だ。自分は安全な場所でのんびり見物してな」

まあ聞いてちょうだいと名前は刺々しい空気を醸し出すリヴァイを宥める。確たる結論から言って欲しいのだろう。

「彼は手段を選ばないことで有名でした。レイス氏が怪しいと睨んだ私と同じように、違う事件で彼を調査する公安官と知り合うことになりました…あなたのいう、三番目の人です」
「レイス氏を調べるようその公安官に指示したのは誰だ……?」
「それはまだわかりません」

イラついたように名前は言った。リヴァイの指は地震の膝を打つことを止めない。珍しく苛立ちを露わにするリヴァイに名前は薄ら笑いを浮かべる。

「でもね、どの事件も確たる物証は無い。私が集めた情報は証拠にはならないんです」

名前が集めたものはあくまで噂話であり、物理的な証拠は無い。彼女は噂話を元に物理的証拠を集めようと動いていたようだ。

「銀行の被害状況を教えてください」
「現時点で死者36名、負傷者60余名。一階は全焼、二階も大破している。地下金庫もやられた」
「…金庫の具体的被害は?」
「それはまだわからない。どの金庫に誰の何が入っているのかを調べるのは俺たちの仕事ではなく銀行員の仕事だからな」
「……現場に連れてってほしいのですが」

リヴァイはじと目を名前に向けた。その怪我でまともに歩けると思っているのか。名前も今更ながら自分の状態に気がついたのか、行けないわねとつぶやいた。どうやらユミルの打った痛み止めの効果は抜群らしい。

「……俺がお前の手足になろう。どうせ今までもそうしてきた。馬鹿だな。お前みたいな素人が直接動くからこんな怪我をする羽目になるんだ。プロに任せておけ」
「…………」
「お前に心配されるほど柔な人間じゃないことはお前自身、知っているだろう」

下手を打った自覚のある名前はリヴァイから向けられる真っ直ぐな視線を受け止めることができなかった。

「それともなにか、お前は俺を信用出来ないってことか。名前よ」

目を逸らされたことに悲しんでいるような仕草をしてみせたリヴァイに名前は慌てた。信用している。信頼している。名前はリヴァイにもう一度パソコンの画面を見せた。

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