21

 
名前とユミルは同時に走り出す。後ろから追いかけてくる足音に二人は視線を走らせた。静かな住宅街にヒールの削れる足音が響いた。名前は走りながらコートのポケットに手をいれ、銃を握った。

「捕まえる」
「まじかよ」

ユミルは名前の腕を引き、公団マンションの前の公園に入った。

「相手も二人だ。暗くてよく見えねェな…おい、名前。あんたの武器は?」
「拳銃が一丁」
「それだけかよ」
「貴方は?」
「丸腰だ」
「信じられない」

相手の武装にもよるが、銀行を襲った奴らならば銃火器を持ちだしてもおかしくない。名前はジャンから買った拳銃に弾を込め、公園の入り口に向かって構えた。遊具の影に隠れている名前達のほうが少しだけ有利だ。これを生かしたいところだが、遠距離攻撃は名前しかできない。せめて逃げてもらうかと思い口を開いた名前だったが、ユミルが拾い上げた石にまさか、と目を見開いた。

「行くぞ」

ユミルが石を大柄な影に投げつける。公園の明かりの外から飛び込んだ石は大柄な男の頭部に命中した。なんて容赦のない医者だと名前はげんなりしながらもこの機会を生かそうと滑り台の影から飛び出して小柄な人影に向かって銃を連射した。反動が重い。打ちながら体当たりすると、その女は上体を大きくのけぞらしながらも、名前に向かって腕を伸ばす。腕をすり抜け女の胸元に銃口を押し付け、引き金を引こうとした名前に、女は拳銃のスライドに手を引っ掛け、発砲を防いだ。力のせめぎあいになった名前の太ももに、突然灼熱の痛みが走る。

「名前!こいつらスペツナズナイフを持ってやがる!」

ユミルの怒鳴り声が聞こえ、名前は力を振り絞り、女と距離を置いた。なるほど足にナイフが刺さっている。ユミルは大柄な男と格闘しているようだ。名前と揉み合っていた女はナイフを出した素振りをみせていない。そもそもスペツナズナイフは近距離では使わない。闇に目を凝らす名前は三人目の人影を探そうと躍起になった。

「よそ見していていいの?」
「ち、くしょう」

名前の鼻先を女の爪先が掠めた。対面している女の足を右腕の外側で払い、ガードの薄い喉元に向かって手刀を繰り出すが、女の腕が名前の手首を握る。名前は身体を捻り発砲した。小さく悲鳴を上げたのは女ではない。ユミルをねじ伏せていた男だ。名前が笑みを浮かべられたのもつかの間で小柄な女は名前の両腕を取ると背後で腕をねじり上げてみせた。その体勢が意味をするところを感じ取った名前は暴れるが、女の力は強く、飛来するナイフに名前はただ腹に力を込めることしかできなかった。

「………」
「あんたしぶといね」

名前から腕を離せば、彼女の身体はゆっくりと崩れ落ちた。身体に刺さっているだけでも十本は超えている。アニは近づいてくるサイレン音を聞き取った。名前の銃声を聞いて住民が通報したのだろう。

「ライナー、撤退だよ。警察が来ている」
「あ、ああ」

頭から血を流すライナーに、肩の関節を外されたユミル。ユミルもパトカーと思われるサイレン音にやべえな、とふらつく頭を振った。倒れる名前に歩み寄り、とりあえず生死を確認する。まだ生きているが、この出血量だと危ない。彼らが去ったことを確認して、ユミルは意識が朦朧としている名前の隣で肩を嵌めた。

「おい、とりあえず逃げるぞ。立てるか?」
「……立たせて」

ナイフは抜かないほうがいいだろう。下手に出血量を増やされたら命に関わる。ユミルは名前の腕を自分の肩に回し、ゆっくりと現場を離れた。血痕は、今は気にしていられない。名前の足取りは意外と足取りはしっかりしている。

「ユミル……五丁目に向かって」
「あ?知り合いでも居るのか?」
「すごく頼りになる警察官がいるしれない」
「…死に際に会いたいってか。せめて道案内はちゃんとしてくれよ」
「まだアドレナリンが出ているからね。しばらくは持ちそうよ」
「ならいいけどな」

名前の息は荒い。ユミルに名前を助ける義務も義理もなかったが、乗りかかった船だ。それにこのまま名前を捨てては目覚めが悪い。

「クリスタを助けた過去のお前に感謝だな。これで貸し借りはなしだ」
「お釣りがきそうだわ」

薄く名前は笑う。家出少女を匿っていたのがこんなところで役に立つとは思わなかった。慈善行動も悪くないね、と言う名前にユミルは笑った。肩にしっかり名前を担ぎ直す。名前は自分のポケットからスマートフォンを取り出してい電源を入れた。電話帳に登録されている唯一の電話番号に電話をかける。ユミルは黙ってそれを見守った。

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