22

 
名前を自宅の布団に寝かせたリヴァイはすぐに救急箱を持ってきた。ユミルは応急処置を施していく。上体の衣類を脱がされていく名前に配慮して部屋の外で待つことにしたが、リヴァイの脳内ではエルヴィンに連絡するべきか迷っていた。意識を失う前の名前が言ったのだ。エルヴィンには連絡するなと。

「とりあえずは終わった。もうすぐ私の助手がちゃんとした医療道具を持ってくる」
「わかった」
「今の季節に感謝だな。厚着していたおかげと、胸元のスマートフォンのお陰で致命傷は負っていない。安心したか?」
「ああ……あいつには聞かなきゃならないことが山ほどあるからな」

リヴァイは寝室を見た。ユミルはリヴァイを無遠慮に眺め回す。ユミルもリヴァイに言いたいことがあったのだ。

「私の聞いたところだと、あいつ、何人かの仲間に手を切られたらしいよ。今回の件でね」
「何が言いたい」
「どうして名前がこの件に執着するのか疑問なんだ。普通なら、やばいと思った時点で手を引く。あいつと手を切った奴らの選択は正解だ。名前もそれはわかっているだろうよ。だから、疑問なんだ。あんたは何か知っているか?」
「俺は何も知らない。名前のことも、今何が起こっているのかも、俺にはわからない」

リビングのテーブルに頬杖を付き、ユミルはいやらしく笑みを浮かべてみせた。ライナーと呼ばれていた男に殴られ切れた唇の端が痛む。今度はリヴァイが質問する番だ。

「お前は名前とどういう関係だ?」
「やぶ医者と訳ありの患者さ。お得意様のね」
「マリア銀行が爆破された事件は知っているな?お前はその時どこに居た?」
「後でくる助手の看護師と温泉にいた。言っておくけど、あたしは名前の仕事に関わることはない。今回はたまたま名前といる時に襲撃されたんだ」
「どうして名前といた?」
「……話すと長くなるんだけど」
「俺は構わない。どうせ今はやることがない」

現在シーナ病院では発見されたリヴァイ班のメンバーの治療が行われている。全員一階にいたため、重体だ。部下の容態が気にかかり、このままでは仕事に集中できないだろうリヴァイに、エルヴィンは今日は休むよう命令を下したのだ。それでも病院で粘っていたリヴァイだが、名前の連絡を受けて家まで戻ってきてしまった。

「話すにしては、喉が渇いたな」

まずは飲み物を要求するユミルにリヴァイはお湯を沸かし直す。ティーセットを机の上に持ってきたリヴァイに、ユミルは眉を上げた。ティーバックで十分なのに。どうやらこの男、凝り性のようだ。

「私の助手の名前を使って名前が銀行に入り込んでいたようだから、ちょっと話を聞いたんだ」
「助手の名前は?」
「クリスタ・レンズさ」

ユミルのスマートフォンが点滅した。画面には着信を知らせる通知が来ていた。ユミルは画面をタップし、耳に当てる。リヴァイは程よい温度になったお湯でカップとポットを温める。ポットに茶葉と湯を入れ、蒸らす。

「ああ、1003だ。インターホンを鳴らしてくれれば開ける。入って右手にエレベーターがある」
「わかった」

すぐにリヴァイの言えのインターホンがなった。画面のなかには金髪の可愛らしい女がいた。彼女がクリスタだろう。ユミルの名前を出したクリスタをリヴァイは向かい入れた。エントランスのインターホンを開けると、ユミルが玄関の鍵を開けにいった。リヴァイはリビングで待機する。寝室から何かが落ちたような音が聞こえたリヴァイは寝室の扉を開けた。

「おい、大丈夫か」
「……っ」
「もうすぐ薬が来る。おとなしく待て……オイ。やめろ、動くな」

起き上がろうとする名前を止めるためリヴァイは彼女の肩に手を添えた。熱い。電気のつけていない部屋で名前の身体に巻かれている包帯が浮いて見えた。名前は乾ききった喉を震わせ、何かを告げようとする。だが、それは声にならずあらい呼吸音だけが大きく響いた。水を持ってこようと腰を上げたリヴァイの服の裾を名前はきつく握り、目で何かを訴えた。

「落ち着け。逃げやしない」

玄関から二人の女の声がする。クリスタがついたらしい。未だにリヴァイを離そうとしない名前に抵抗するのを諦め、リヴァイはおとなしく腰をおろした。

「おっと、お邪魔だったかな」
「そんなことはない。早く手当してやれ。熱も出ている」
「わかったよ。クリスタ、水を持ってきてやれ」
「えっ、うん」

リヴァイは冷蔵庫のなかのミネラルウォーターの存在を教えた。ユミルによって名前の包帯が解かれていく。ガーゼ代わりに貸したリヴァイの白いシャツはまばらに赤く染まっている。ユミルは注射で痛み止めを打ち、豪快に消毒液をかけていく。刺創だが、そこまで深くない。内蔵に達している様子も無いし、大きな血管を傷つけている様子もない。ユミルはスキンステープラーで傷を縫合した。クリスタはミネラルウォーターを名前の口に運び、冷えピタを額に貼った。

「ユミル、点滴はする?」
「ああ。生理食塩水で抗生物質を入れとけ。あと眠剤も。名前、少し寝ておけ」

顔を歪ませた名前だったが、ユミルは溶液を準備しだした。クリスタは素早く点滴をとる。数分もすれば名前のまぶたは落ちた。

prev next
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -