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夏休みはほとんど実家に帰っていた。大学の夏休みは随分と長く、講義開始は9月の最後の週からだった。そして夏休み明けには10月祭、またはハロウィン祭がある。空知大学で行われる学園祭のことである。沖田、土方、山崎、神威に阿伏兎、名前と志村妙はそのハロウィン祭実行委員に所属していた。委員長である近藤の気合いの入ったやや男臭い話によって周りの男子は士気を上げ、あと一週間に迫った祭りに向けて準備万端の様子を見せている。真面目に打ち合わせに参加している土方と志村とは違い、イマイチ元気とやる気のでない名前や沖田はスマートフォンを弄りっぱなしである。ツイッターでリプライを飛ばし合ってタイムラインを荒らしていく。フォロワーは迷惑だろうが嫌ならリムってくれればいいと沖田はいう。だが、名前の心配事は友人にリムーブされることではなく、沖田のファンが名前と沖田との関係を変に勘違いするのではないかということだ。突然「愛してますぜ名前」とエアリプで飛ばされてみろ。とりあえずお気に入りに登録してから目の前の沖田をじろじろて見てその目に悪意が映っているのを再確認した。

「……モテる男が女の子の純情弄んでくるよお」
「弄んでいませんぜ。本気でさァ」
「総悟、ホストのバイト向いてるんじゃない?」
「確かにそろそろバイトしないと金がやばいかもなァ…まあ気が向いたらやってみまさァ」
「俺もやってみようかな。そしたら名前、来てくれる?」
「……神威のおごりなら行ってあげる」

沖田と名前の会話に神威が乱入してきた。神威も沖田も確かに外見はいい男である。しかし、沖田の内面はドSだし、神威は名前の純情を文字通り弄んだ経歴があるから中身もいい男かと聞かれたらノーと答えるしかない。神威がいるということは彼の彼女もいそうなものだが、神威の傍には阿伏兎しかいなかった。周囲に内緒で付き合っているらしいので大ぴらに聞けない名前だったが、阿伏兎が口パクで何かを告げようとしていることに気付いてそれを必死に読み取ろうと彼の方をずっと向いていた。そんな彼女の髪の毛を神威は引っ張る。

「酷いよ名前。俺が来たのに阿伏兎に夢中?」
「それは語弊があるんだけど……」
「お前のせいで名前が困ってまさァ。ほらほらあっち行った」
「相変わらず生意気だね沖田。お前みたいな性悪より俺の方がマシだろ?名前?」
「え、なにこの状況」

イケメンに両手を掴まれるというおいしい状況にありながら、一方で上級生の視線、とくに女子の視線が突き刺さった名前は眼を泳がせた。晩飯食いにいきやしょーぜ、と言う沖田に何故か神威が賛成する。このままだと途中退出しそうな予感がした名前は必死に阿伏兎に助けを求めた。だが役に立たない。土方に助けを求めようとしても彼は窓際で打ち合わせの真っ最中だ。観念した名前。居酒屋に行くという二人に自分は絶対に呑まないと誓った。


■ ■ ■


沖田と神威の家が新宿に近いから、ということで新宿の焼肉に行くことになった。あまり新宿にいい思い出のない名前であるが、ドS二人に逆らえるわけなく渋々ついて行った。大手焼肉チェーン店の看板をくぐり、特に年齢確認もされることなく席についた。一年浪人して現在二十歳の神威はともかく、名前も沖田もまだ未成年。ドキドキした名前はホッと息を吐いた。

「飲み放題三つと……食べ放題でいいか」
「え、あたし飲まない」
「何言ってんでさァ。そんな無粋な真似ゆるしやせんぜ」
「明日一限からだし起きれないじゃん」
「大丈夫、俺がモーニングコールかけてあげるから」

そう言った神威はすいませーん、と店員を呼び、「ひとまず飲み放題つきの食べ放題三人で」と注文を済ませてしまった。後は各々で食べたい焼肉を頼んでいく。ユッケやらカルビやらタンやら。相変わらず神威の食欲はすごく、やってきたカルビ10人前が焼き上げる前に白米4人前を平らげていた。ビールを片手にお米を流し込むあたりもうおっさんである。運ばれてきたサラダを細々と食べている名前はココナッツミルクをちびちびと飲む。そこまで強くないし、なにより酔っぱらった神威や沖田の面倒を見る羽目になるのは間違いないからそこまで飲むつもりはなかった。カルビ争奪戦を繰り広げる二人を冷たい視線で見る彼女に神威は意地悪な笑みを浮かべて尋ねた。

「で、沖田と名前は恋人できた?」
「……」
「俺はいませんぜ。そういうあんたは今どうなんでさァ」

ピシッと複雑な感情を露わにした名前は眼の前に座る神威の足を踏んだ。神威に(酔っぱらった勢いで)告白したことは妙にも猿飛にも言っていないのだ。しかもフラれたと沖田に知られたらもう輝かしいキャンパスライフは送れない。隣に座る沖田はそんな二人に特に違和感を感じることもなく、神威を問い詰めた。ちなみに沖田には彼女はいない。モテモテだが、高嶺の花すぎて告白する子はあまりいないのだ。ちなみに極度のシスコンでもあるため理想が高いらしい。

「俺はいたけど……」
「え、別れたの?」

「弄ってやろうかとおもってたのに」と拗ねる沖田をよそに神威は「もう一か月も連絡とってないしネー」と笑った。それに対し名前はますます複雑な心境になった。神威が彼女と別れたのは嬉しい……っちゃ嬉しいが、自分をフって彼女と付き合ったんだからもっと真面目な恋愛をしてほしいともおもった。名前が3分の2ほどに減ったアルコールを一気に飲み干してお代わりを頼むと神威は嬉しそうに笑った。この性悪が。いまとなって恋愛感情はほぼないが、好意はある。

「で、名前は彼氏なんていませんよね」
「なんで居ない前提なのよ!そんなのわかんないじゃん」
「キャンパスで見る限りいそうにないもんネ」
「うるさい神威。夏休みに地元でできたかもしれないじゃん!遠距離恋愛中かもよ!」
「おっ、いるんですかィ?」
「言わない!」

呑ませて吐かせるしかないネと言い放った神威はウイスキーをロックで頼んだ。とりあえずすきっ腹で飲むと酔いが回るから、と名前は肉を焼いては食べていく。神威がいるのでもとは十分すぎるほどとれただろう。皿を持ってくる店員も片づける店員も驚きを隠さない。これでも喋りながら食べているせいでいつもよりペースは遅いのだ。酔って絡んでくる沖田を適当にあしらいながら名前も今日は酔うことを決めた。

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