01

 
黒色アルミ合金製の二つの輪が同じく合金の小さな輪同士をつなげたリング状の鎖により繋げられているこの小さな拘束具は二十年前にニッケルメッキから現在のアルミ合金に素材が変わった。その御蔭で軽量化され、警官にとっても被疑者にとっても身につける負担は減った。だが、負担が減ったからといってその効力が落ちるわけではない。リヴァイは目の前の女の華奢な手首に手錠を掛け、しっかりとダブルロックをした。

「十五時三十六分、銃刀法違反罪で現行犯逮捕だ」

やれやれと女は頭を振る。しっかり手入れのされた長い髪が頭の動きに合わせて揺れる。彼女が好んで使うハーブのシャンプーの匂いがどうしても記憶の中から消えそうになかった。


■ ■ ■


警視庁刑事課捜査のエースであるリヴァイは全国一位の検挙率を今年も保持していた。リヴァイが逮捕する人間は殺人犯だけではない。麻薬の売人から売春斡旋業者、果ては万引き犯まで彼は捕まえてくる。彼が異例の検挙率を誇る理由を嗅ぎまわるものは多くいたが、いくつかの噂が浮上しただけで、誰もその真相を知らないという。それはリヴァイが率いるリヴァイ班の班員も同じだ。ふらっと路地裏に入ったと思ったら違法ドラッグの売人を捕まえてきた時には絶句した。

「班長。例の事件、自殺との判定で捜査は打ち切りのようです。先ほど上から指示がありました」
「ああ…分かった。一応ファイリングのコピーをまとめて俺のデスクに置いておいてくれ」
「承知いたしました」

リヴァイはエルヴィンのデスクを睨む。生憎、リヴァイの上司であるエルヴィンは警視総監に呼ばれたらしく午前から出ている。刑事部長であるエルヴィンの命により、リヴァイは一課殺人犯捜査科から離れ、エルヴィン直属の班を持つことになった。エルヴィンがリヴァイに直接指示した事件に介入できる権利を持ったリヴァイは、従来の捜査一課だけでなく二課、三課、四課、それに鑑識課にも首を突っ込むことができる。

「そういえば班長、警視正への昇進を蹴ったらしいじゃないですか。どうせ現場に残るにしても昇進だけはしておけと言ったのにってエルヴィン警視長がこぼしていましたよ」
「昇進すると厄介な付き合いが増える。俺はそういうものが苦手だ」
「……もったいないですねえ」

リヴァイに言われ、資料のコピーを取ってきたエルドは本当にもったいないと心の中で繰り返す。ノンキャリアで警視という立場に立てることも異例だが、警視でありながら現場の第一線で動くリヴァイは異端だ。だが、残りたいといったリヴァイの我儘が通ってしまったのも、彼の並外れた実力によるものだ。実際、リヴァイが一線から離れれば検挙率は大きく下がるし、その話が外部に漏れれば、犯罪率も向上するだろう。リヴァイの名前は抑止力にもなっている。

「俺には妻も子もいねぇから昇進したところで給料が余計に余るだけだ。いらない税金は使わないに限る。お前もそう思うだろう?」
「…一生ついていきます」

コーヒーを傾けながらリヴァイはさも当たり前のように言う。それをたまたま小耳にはさむ形になったペトラはふらっとよろける。なんて禁欲的なのだろう。一生ついていきますと心の中で叫ぶ。リヴァイはさも当たり前のことを言っただけであるため、決して自分の発言に驕ったりはしない。何事もなかったかのようにパソコンに向かって資料を作り始める彼の背中をリヴァイ班の班員は熱い視線で見つめた。

「エルヴィン。どうした」
「殺人事件発生だよ、リヴァイ。しかも厄介な。お前の班員に内密に会議室を用意させてくれ。後三十分程で戻る」
「承知した」

リヴァイがスマートフォンから耳を離す。椅子を回し、最初に目があったオルオをちょいちょいと手招く。リヴァイに呼ばれたオルオは盛大に目を輝かせて駆け寄った。彼が犬ならば尻尾は振り切れんばかりに振られているだろう。

「二時から内密の会議を行う。五階の一室を確保しておけ」
「メンバーはフルですか?」
「いや、俺の班とエルヴィンだ」
「すぐに手配します」

オルオは早足でフロアを出た。リヴァイは放送を待ったが、何もかかってこない。普通ならば、殺人事件発生確認と同時に事件概要と現場住所がアナウンスされるはずだ。それが、かかってこない。内密に、とエルヴィンが言ったように、表に出されないものらしい。きっと忙しくなる。少し休むかと目を閉じたリヴァイの耳がドタドタと騒がしい足音を拾った。

「リヴァイ!」
「うっせえな。ここは一課だぞ。監察課はおとなしく研究室に籠もっていろ」
「酷い言われようだね、全く。まあいいや、エルヴィンから連絡、来ただろう?」

ハンジはリヴァイの耳元で声を潜めて囁いた。ハンジも招集されたようだ。ハンジがリヴァイの机の上に置いてある、先ほどエルドが渡した資料を指でなぞる。

「今回は自殺かな?殺人かな?警察官の自殺で一番多いのが自分の拳銃を使っての自殺らしいよ……ねえ、どう思う?あなたは自分の拳銃で死にたい?」

ハンジはリヴァイの肩に手を置き、パソコンのマウスを勝手に動かした。履歴をたどり、駅前のカフェのホームページを開く。新作はキャラメルとマロンを使ったクリームフラペチーノらしい。甘いものは苦手だ。それと同じくらい、ハンジの見透かしたような目も苦手だ。冗談だよ、と笑い、ハンジは去っていく。二十分後の会議を思い、リヴァイは疲れきったようなため息をついた。

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