02

 
予定時刻を二分ほど過ぎてから会議は始まった。二列に六個並べられたテーブルの右側にリヴァイ班が座り、向かい合うようにハンジ班が座る。ペトラがエルヴィンから送られた資料を印刷し、配った。オルオがセットしたスクリーンにミケがつなげたパソコンの画面が映しだされた。ブラインドとカーテンが閉められ暗くなった部屋に映されたのは、三人の警察官の顔写真だった。

「マスメディアへの発表は控えてあるが、今月に入って三人目の警官自殺者がでた。前の二人と同じように自らの拳銃で頭を撃ち抜いて亡くなったようだ。」
「……前二人と同じようにこいつも公安なのか?」
「ああ。その通りだ。三人とも警視庁公安部に所属していた警官だ。階級は違うが」

四十代、四十代、三十代と年齢に統一性は見られない。ミケが写しだした情報から読み取るに、出身大学も違えば、担当してきた課も階級も違う。共通しているのは性別と所属部署だけであるようだ。

「今回私が、ピクシス警視総監に呼ばれたのはこの件が自殺だと断定できないからだ。リヴァイ班とハンジ班には彼らの死が自殺なのか他殺なのか調べ、他殺ならば犯人をあげて欲しい」
「こいつらの任務内容は?」
「残念ながら分からない。彼らのパソコンや携帯のデータは全て消去されていた。それに、これは警視総監直々の任務のため、表立って公安部に情報提供を求めることもできない。なるべく少人数でとのことだ」
「手がかりは全くなしだと?」
「いや、少しはある」

ミケが動画の再生準備を始めた。監視カメラの映像のようだ。テーブルのメニューの表紙に書かれたロゴマークは大手全国チェーンのレストランのものだ。画面が半分に分かれ、二つの映像が流される。リヴァイは目を細めて映像を視界に収めた。レストランの二人がけの席に向かい合う男女。どちらもスーツを着ている。男の方は、三人目の写真の男のようだ。カメラの角度が悪いのか、女の顔はよく見えない。男の後ろから斜め横に移されたカメラでは、女の口元から下しか見えない。

「封筒…?B5サイズと長形4号かな?」

映像の中で、男が鞄の中から二つの封筒を取り出して女に渡した。どちらもそれなりの厚さがあるようだ。女は中身を確認するとすぐに鞄に仕舞った。マニキュアや指輪と言った特徴はない。何事かを話しているようだが、音声はないために全くわからなかった。

「これは昨日午後三時の映像だ。他の監視カメラは警視総監の部下の方がチェックしてくださっている」
「封筒の中身は金か?」
「ああ、この直前に彼は銀行で百五十万円を下ろしていた」
「ということはこの女は情報提供者の可能性が高いな……チヨダのファイリングをパクってくるか……」
「やめてくれリヴァイ。くれぐれも、内密に、だ」

公安部で協力運営などの情報収集の統括を担っているチヨダと呼ばれる組織には、協力者の情報が一括ファイリングされている。この女が、三人目の犠牲者の協力者ならば、そのファイリングの中に情報があるはずなのだ。動画はひたすらリピートされている。背もたれに持たれっぱなしの女が画面に顔をだすことはない。もしかしたら、監視カメラに写らないよう故意にやっているのかもしれない。

「止めろ。女の口元を拡大してくれ」

リヴァイがミケに声を掛けた。すかさずミケは動画を止め、リヴァイの指示通り、女の口元を拡大していく。顎に手を当て、リヴァイは彼女の口を凝視した。

「センタータンピアスだな」
「よく気がついたねリヴァイ」

女の舌のどまんなかにはピアスらしき小さな銀の玉があった。リヴァイの眉間にぐっと皺が寄る。ペトラたちもこれだけの情報ではと苦い顔をする。だが、年齢は絞れただろう。四十代五十代の女がタンリングをしてファミリーレストランに行くとは思えない。恐らく、三十歳以下だろう。だがまだ、女というのも断定できない。入り口の防犯カメラに写った髪型が茶色のロングだったため、女と仮定しているだけだ。男が女装している可能性もある。様々なパターンを考えだすリヴァイが集中し始めた時、その集中力を割くようにエルヴィンの携帯がバイブでメールの受信を告げた。

「ハンジ、遺体が届いたようだ。お前は三人目の犠牲者の解剖に行ってくれ。手は回してある」
「オッケー!行くよ行くよ!」

ハンジが素早く立ち上がり、モブリットの腕を引いて部屋から飛び出していった。ケイジとニファが慌ててハンジの跡を追う。エルヴィンは苦笑で彼らを見送った。リヴァイは資料をぺらぺらと捲る。一人目と二人目の遺体の発見者は家族のようだ。三人目は同僚らしい。詳しい内容は書いていない。公安部が黙秘を貫いたのだろう。

「最初の二件は捜査を打ち切るよう上から指示がありましたよね……つまり、もしもこれが他殺ならば、内部の誰かがこの件を闇に葬り去ろうとしているってことですよね。それも、かなりの上層部ですよ」
「ああ、その可能性が高いだろうな。だからピクシスのジジイは内密にってことで俺たちに依頼してきたんだろう」

エルヴィンも頷く。もしも三件の事件が殺人ならば、警察の威信に関わることになるだろう。ピクシス警視総監は他殺の可能性が高いと言っていた。エルヴィンも、勘でしかないが、なにかきな臭さを感じる。不幸なことに、ミケも同じくきな臭さを感じ取ってしまった。恐らくこの予感は的中するだろう。

「二人目と三人目の手帳だ。調べてくれ」

エルヴィンはジップロックで密封されたスケジュール帳を机の上に置いた。それを素早く打ち手をはめたペトラが受け取る。エルヴィンとミケは手帳を渡すと早々に部屋を出て行った。残された班員はリヴァイからの指示を待つ。

「俺は出る。その手帳から手がかりを探せ」

ジャケットを羽織り、リヴァイは部屋から出た。リフレッシュかと、班員は疑わずに見送った。リヴァイの表情は珍しく固く、そして廊下を歩きながら握るポケットの中の携帯は彼の握力によって嫌な音を立てようとしていた。

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