21

 
体内の酵素を交換しあうなんて可能なのかと名前は聞いた。だが、リヴァイにも理屈はよくわからないらしい。そんな不明瞭なものに自分たちの命を預けていいものかと名前は項垂れた。

「その為にハンジの実験に付き合うんだろうが。お互いのために、な。どちらかが拒めば成り立たないうえに、今後を共にすることになる。お前も覚悟を決めろ。いい関係の方がお互いにメリットがある」
「運命共同体って時点でもう覚悟はできていますよ」
「軽い女だな。見損なった」
「リヴァイさん、自分が言っていることが無茶苦茶だってわかっていますか?」

リヴァイと共に塔の階段を下る。やはり階段というものは登るより下る方が圧倒的に楽なのだ。リヴァイとしゃべっていることもあって、すぐに地上に着いた。すっかり月は登ってしまっている。綺麗な三日月だ。

「どこに行くんですか?」
「エルヴィンに会いに行く」
「えっ戻ってきていたんですか?」
「ああ。お前が来る少し前にな」

リヴァイはずんずんと先に進む。名前は小走りでその後を追った。西の居館の全ての窓から明かりが漏れている。こころなしか空気も軽い。落ち着かない名前とは対称にリヴァイはいつものごとく冷静だった。

「うっ、頭痛くなってきた」
「知恵熱じゃないのか」
「そうかもしれません」

リヴァイは居館の扉を開けて名前を招き入れた。そして何故か地下を下る。ハンジの部屋を通り過ぎ、リヴァイが足を止めたのは書庫だった。ポケットから鍵を取り出し、解錠する。リヴァイは本棚に目もくれずに書庫の奥を目指した。なにをする気だろうかと訝しげに見る名前に待つよう言い、リヴァイは左奥の本棚の端に手をかけ、半回転させた。

「ええっ!?なにこれ」
「少し静かにしろ。取りに行く物があるだけだ。お前はそこで……」

待っていろとリヴァイが言う前に名前は隠し扉の中に入っていった。自分の腕の下をくぐり抜けた名前にリヴァイは開けっ放しにしていた口を閉じる。触るなよ、と言い聞かせ、リヴァイは後を追った。

「なにこれ…グロい」
「ハンジの研究サンプルだ。触るな」

明かりを付けたリヴァイによって照らされた部屋の中は気味の悪いもので埋め尽くされていた。ホルマリン漬けになっている内蔵やら剥製やらに名前の顔は引きつる。リヴァイはさらに奥に進み、小さな箱を持ちだした。それを片手で持ち、もう片方の手で名前の手首を掴んだ。

「さっさと出るぞ」
「もう少し見たいんですけど」
「ダメだ。エルヴィンに会いに行く」

リヴァイは名前を引きずるようにして部屋から出た。階段を登り、今度こそエルヴィンに会いに行く廊下にまで聞こえてくるハンジの笑い声に名前の眉が下がった。リヴァイは勢い良く声が聴こえる部屋をノックした。

「エルヴィン。遅くなって悪かった」
「いや、構わないさ……おや」
「名前です」

エルヴィンはソファーから立ち上がり名前に握手を求めた。名前もそれに応じる。その手はぞっとするほど冷たかった。彼がエルヴィン。純血の吸血鬼。

「名前の金髪とエルヴィンの髪、同じ色だねえ」
「ハンジ……」
「おや、レディ自慢の髪をこんな男と一緒にされては失礼だろう」

そんなことはないと名前は首を振った。どうしてリヴァイはここに連れてきたのだろう。まあ、座ってくれと言われ名前はエルヴィンの座っていたソファーの向かいにあるソファーに腰掛けているハンジの隣に座った。ハンジは名前とリヴァイを何度も見比べる。

「リヴァイ、君はてっきり名前の心臓を食べたのかと思ったよ」
「予想が外れて残念だったなクソメガネ。お前にとっても被験体が二体残るのは喜ばしいことなんじゃないのか」
「ああ、最高だね」

ハンジは名前の手を握った。だが、名前にとってハンジはいい人とはいえない。彼女は名前の正体を知っていたのだ。悪いことはされていないが、彼女の行いが善とは言えないと判断した名前はその手を握り返すことはしなかった。代わりに顔をそむける。

「嫌われたようだな」
「ええっ…酷いなリヴァイ。名前に何を吹き込んだんだい?」
「俺は何も嘘は言っちゃいねえ」

エルヴィンはそのハンジとリヴァイの様子を見て状況を把握したのだろう。手を振って二人の会話を止めた。リヴァイもハンジも瞬時に口を閉じる。統率のとれた動きに名前は唖然とした。

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