22

 
エルヴィンは友人であるリヴァイの命をつなげるため、名前をこの城におびき寄せた。彼女はエルヴィンの意図通りこの街に来ることになり、リヴァイと対面した。エルヴィンはてっきりリヴァイがもう心臓を食べているものだと思ったが、彼女は未だピンピンしている。

「リヴァイ、私の予想では彼女は今頃ハンジの剥製になっているか、解剖されているかだと思ったのだが、違うようだね」
「ああ。予定変更だ、エルヴィン。こいつは殺せない」

リヴァイは名前のことを目を細めて見る。その様子を正面で見ることになったハンジはなにかを察した。名前の腕を取って立ち上がる。どうせエルヴィンへの挨拶は済ませた。彼は数日は確実に滞在するようだ。

「私達はお暇させてもらうよ!なにせ名前ももう寝る時間だろう?」
「えっ私は別に……」
「さあさあ!行くよ!」

ハンジに肩を組まれ、部屋から連れだされる。ハンジは空気が読めるやつだ。リヴァイはエルヴィンの隣から、正面に席を移動させた。

「で、何があった?どうして彼女を殺さない?」
「名前の首にかかっていたネックレスが……」
「ネックレス?」
「あいつは昔、死にかけた俺を助けた女だ。本人はさっぱり覚えていないらしいが、あのネックレスにあの面影。間違いない」
「……奇縁だな」
「全くだ」

エルヴィンは机の下からワインを取り出した。リヴァイはそれを見て食器棚からグラスを取り出す。わずかに注がれた赤い葡萄酒に頷いたリヴァイは唇についたワインを舐めとった。上物のワインで機嫌が良くなったリヴァイは昔話を始める。

「俺が孤児になったのはあいつと同じ五歳の頃だ。俺は望まれた子ではなかったらしくてな、人間である母親に育てられたが、同時に忌み嫌われていたよ。家から出ることもなく暮らしていた俺の生活が変わったのは、役人が母親を魔女だといって引っ立てていった時だ。一人残された俺を引き取るような奴もいない。そのうち人買いに攫われて地下に売り飛ばされた」
「……」
「そこで身体能力を買われてな、人殺しやら異形狩りやらなんでもしたさ。そのうち独り立ちするようになって、地上に出た。その時にはもう母親は裁かれて殺されていたよ。酔狂なもんだよな。ダンピールの俺が生きて人間の母親が人間によって殺されたんだ。あの女が最後になにを思ったのかはしらねえ」

リヴァイはグラスの中に写る己の顔を見た。父親似だと言われてきた顔だ。確かに母親に似ていたのは目の色くらいだった。

「地上に出たものの、俺のやることは変わらなかった。依頼がくれば人でも異形でも殺す。どっちでも無い身としてはやりやすい仕事だしな。十数年前、水魔に手こずった挙句の果てに溺れた俺を助けたのが名前だ」
「それを恩に着ているのか」
「ああ」

水から引き上げ、心肺蘇生を施し、冷えた身体を温め、食事を与えてくれた。近くの根城まで連れて行ってくれ、リヴァイの熱が下がるまで飽きずに看病してくれた。それは、母親から与えられたことのないリヴァイにとって初めての人からの好意だった。温かい。名前の全てが温かいと思ったのだ。
すっかり具合の良くなったリヴァイはお礼にと商売道具だった魔除けのネックレスを差し出した。遠慮していた名前に押し付けたのは、思い返して見れば記憶にあたらしい。だが、あれは恐らく十数年前の話だ。リヴァイも実物を見るまで忘れていた。

「彼女のネックレス、あれはお前の部屋にあった壁飾りと同じものだったな」
「ああ。まあそんなことはいい。エルヴィン、お前の知恵を貸してほしいのだが」
「私に早急に帰って来いと言ってきた理由はそれか?」
「そのとおりだ」

リヴァイは眉間に皺をよせ、深刻そうな顔をつくる。エルヴィンも浮かべていた笑みを消した。エルヴィンに蝙蝠を飛ばし、至急帰ってくるよう伝えたのはリヴァイだ。一体なんの相談だろうかとエルヴィンは身構えた。

「名前にハンジの実験のことを話した」
「ほう」
「ダンピールが生き延びるためには同じダンピールの心臓を食うか、体内の酵素を分け合うかという選択をさせた」
「ほう……」
「前半は正しい。後半は不確かなものだ。そして名前はころっと騙されて俺を愛する努力をしてくれるらしい」
「リヴァイ、お前にしては珍しいほど突拍子もないことを言ったな」
「名前どうこうを置いておいて、残り少ないダンピール同士で殺し合うのは厄介だろう。俺達は有能だ。優秀な遺伝子は長く残すべきだと思わないか?」
「ああ、思うさ」

エルヴィンは先ほどハンジから渡された資料をリヴァイの前に置いた。リヴァイはすぐにそれに手をのばす。表紙には『吸血鬼の対病・対加齢について』とあった。ハンジにしては丁寧に書かれている文字だ。紙が綺麗なことを確認し、リヴァイはページを捲った。

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