17

 
ライナーの話を聞いて名前が出した結論は、共に真相を突き止めるということだった。
異種交配なんて許されることではない。神に背いた行為に名前の心中では嫌悪が七割以上をしめていた。

「リヴァイさんとその話はしたの?」
「いいや……あの人はどうにも近寄りがたくてな。この城じゃあ、人間とそれ以外では大きな隔たりがあるんだ。好き好んで付き合おうとしないさ。例外がエレンだな。最初は敵意むき出しだったが、まあいろいろあって和解した」
「人懐っこいですよね、エレンくん」

名前は尻尾をぱたぱたと振るエレンを思い浮かべた。嫌われてはないような気がする。嫌われているならば会いにこないだろう。彼はしょっちゅう用もないのに会いに来る。もれなくミカサやアルミンも来るが、彼が引っ張ってきているようだ。
その回想を切り上げて名前は先ほどの話のなかで気になっていたことについて聞いた。

「街の地下だとは言えそんな実験を内密にできるものでしょうか?」
「どうだろうな……なにせ五十年前だし、俺達の街は他の街より外れにあったから、人目にはつきづらいだろうな」
「ふうん」

ライナーが頭を振った。名前は自分の膝を叩く。やるべきことが見えた。まずは、エルヴィンの部屋を探ろう。もしかしたら心臓を置きっぱなしにしているかもしれない。次にリヴァイに異種交配について何か知っていないか聞こう。名前が指折りでタスクを上げていく。ベルトルトが小さく挙手をした。

「エルヴィンさんの部屋は何度も入っているけど見つからなかったよ。ほら、僕達掃除をさせられているから隅々まで調べたんだけど……」
「隠し部屋も調べたが今のところなさそうだな」

まあ、そうだよね、と名前は肩をすくめた。ライナー達が自分たちで探して見つかっていないのだ。そう簡単にみつかる場所にはない。彼らが入れない、入ったことがない場所を探さなければならない。

「隠し部屋まで記載された地図が欲しいなあ」
「……まあ、無理だな」

ライナーが慰めるように名前の肩をぽんぽんと叩いた。しかしエルヴィンはどうして彼らを解放しようとしないのだろうか。名前にはそれが疑問だった。この城では皆自由気ままに生きているようだ。別に下働きが必要なわけではない。名前はベッド横のサイドテーブルに飾られた綺麗な生花を見ながら考えた。

「まあ、そう焦りなさんな。俺達も協力できることはなんでもするつもりだ」
「ありがとう。頑張ります」

アニとベルトルトも頷いた。心臓の件はひとまず置いておいて異種交配についてから調べてみよう。名前はハンジに会いに行くことにした。アニとライナー、ベルトルトは掃除をしに行くようでついてきてはくれなかった。

「ハンジさん、今いいでしょうか」
「ああ名前、あなたならいつでも歡迎だよ。お茶は必要かい?今モブリットがいなくてね、悪いんだけど淹れてくれるかい?」
「ええ。奥、借りますね」

ハンジはソファーの上においていた書類を乱雑に床に落として名前が座るスペースを確保した。名前は茶葉を入れたポッドとマグカップを二つ手にして早々に戻ってきた。ハンジはまだ蒸れていないだろう紅茶を気にすることなく自分のカップに注いだ。ふうふうと息をかけながら飲み、熱いと顔をしかめる。

「前に吸血鬼の繁殖方法を調べているって教えてくれた時に、吸血鬼と人類の間に雑種が生まれる可能性があるのかってことも少し言っていましたよね」

名前の言葉にハンジの目が意味深な色を帯びた。ハンジは足を組み、ソファーの背もたれに片腕を回す。そしてマグカップを掲げるように上げながら、名前を興味深そうに見た。

「そうだね。とても興味が有るよ。でも、いきなりどうしたんだい?この間まで支配の方に興味を持っていたように思えたんだけどね。」
「そうね。まあ、そっちはそっちで興味はあるんですけれど。ハンジさん、リヴァイさんがダンピールだって知っていますよね?」

名前の断言した疑問文にハンジは笑った。

「ああ。知っているとも。私と彼は旧知の仲さ」
「それって自然に生まれたダンピール?それとも人の力が働いてできたダンピール?」
「どうしてそんなことを聞くんだい?」

ハンジの口角がどんどん釣り上がって行く。名前から質問されることが快感であるかのように大きく腕を広げてみせた。そして名前が質問に答えることを待ちきれないというように腕を震わせてみせる。ハンジのその異常にも見える行動に名前は少し引いた。

「城の人たちが教えてくれました。五十年近く前、彼らがいた街で異種交配の実験がされていたって。対象を動物から異形へ移そうとしていたことを知って一騒動起こした。彼らのお陰で計画は頓挫したみたいだけど」
「ふうん。それで?」
「吸血鬼と人間のハーフが自然に生まれるなんて考えられません。リヴァイさんがそれに関わっていたのならば、その実験はまだ続いているってことでしょう?ハンターとしても聞き流せない話です」
「ああ、そうか」

名前の答えにハンジは前髪を掻きあげてみせた。そうか、ともう一度呟く。名前の目はハンジに注がれており、ハンジはそれを横目で受け流した。とても残念だ。ハンジは胸中で呟く。彼女は惜しいところまで近づいてきているがあとひと押しが足りない。さてどうしようかとハンジは顎に手を当てた。

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