18

 
名前がハンジに聞きたかったことについて、ハンジは知らない。ハンジが興味を持っているのはリヴァイ自身の生体であり、出生ではないからだ。
自分で聞いてみたら?と名前にいうと彼女の歯切れは悪くなる。口に飴玉でも隠しているかのようにもごもごと名前は話しだした。

「なんか本人に聞くのは気がひけるんです」
「おや、私の知る名前はそんな不甲斐ない女じゃないはずだ。他人からどう思われようが気にしない人間だと思っているんだけどね」
「それはそれで失礼ですよ。知っているなら教えてもらってもいいと思うんですけど」
「だがこれはプライバシーの問題でもあるよね」
「私の知るハンジさんはプライバシーなんか気にせずに自分に利があれば情報を漏らす人です。それに私からの質問にも答えるっていってくれたじゃないですか」
「あなたもあなたで失礼だ。確かに質問に答えると言ったけど、十分答えた気もするよ。名前はリヴァイを避けたいようにも聞こえるけど、リヴァイになにか言われたのかい?」

ぐっと名前は言葉に詰まった。書庫での出来事以来、名前はリヴァイを避けている。露骨に避けているわけではないが、中庭を一人でぶらつくこともなくなり、書庫も長い時間滞在しないようにしていた。塔の上からリヴァイの視線を感じることはあったが、名前はそれに対して何もアクションを起こさない。失礼なことかもしれないが、名前にとってああいうことを言われたのも始めてで耐性がないのだ。

「ほら、本人に聞いてご覧。きっとリヴァイも名前から聞かれたいと思っているよ」
「ハンジさんはリヴァイさんから何か聞いているの?」
「何かって?」
「その、私をどう思っているかとか」

名前の頬に赤みがさっと刺した。頬を手で擦ったような赤みにハンジは頭を傾げる。

「リヴァイが名前のことをどう思っているかだって?それは聞いたことがないなあ」
「へ、へえ…そうなの」
「リヴァイにどう見られているのかが気になるのかい?」
「まさか」

挙動不審になった名前にハンジは訝しげだ。名前は冷めた紅茶をマグカップに注ぎ、勢い良く飲み干す。どうにもハンジから聞き出せそうにないと思った名前は自分でリヴァイに聞きに行くことを決めた。もやもやしていても仕方がない。リヴァイの出自について聞くついでに、書庫での言葉について真意を問おう。名前は空になった二つのカップをまとめた。

「デスクに置きっぱなしで大丈夫だよ。もうすぐモブリットが帰ってくるからね」
「ええ、じゃあお言葉に甘えて…また来ます」
「いつでも」

ハンジもソファーから立ち上がって自分の机に向かった。名前が部屋を出るなり机に突っ伏す。
彼女はリヴァイにあの質問を尋ねるのだろう。リヴァイはどう答えるのか興味があった。ハンジから見てみれば名前の行動は間抜けにしか見えない。城の人間の心臓を取り戻そうと躍起になる前にやることがあるだろう。にやにやとしながら砂時計を突き回すハンジを見て、部屋に戻ってきたモブリットはため息を付きたくなった。

「まったく……今度は何を企んでいるんですか?」
「私は企んでなどいないさ。むしろこれはエルヴィンの企みだよ。とっても巧緻なね、そうだモブリット、エルヴィンに手紙を出したいんだ」
「蝙蝠で飛ばしますか?」
「ああ。それだ、どの赤いリボンの封筒だ」

モブリットはハンジが指を指す封筒を手にとった。

「なるべく早く頼むよ」
「はい。そういえばエレンが彼女を探しまわっていましたよ。最近よく彼女といるのを見ますね」
「ああ、リヴァイが名前を監視するようにエレンに言っているからね」
「そうだったんですか」

モブリットは放置されているティーセットに目を留めてハンジがかいた手紙を一旦置いた。先にこちらを片付けるべきだろう。彼はティーセットを持って給湯室に入り、洗剤とタオルでぴかぴかに洗ってみせた。使ったタオルを腕にかけ、空いた手に手紙を持つ。よろしくーとハンジは手を振った。彼が階段をあがる音がして、ハンジは自分の手帳に名前が言っていたことを書き留めた。ペンを回していると階段を勢い良く駆け下りてくる音がする。なんだ?と顔をあげると扉を勢い良く開けたモブリットが部屋に駆け込んでいきた

「モブリット?」
「エ、エルヴィンさんがお帰りになりました!!!」
「おやあ、予想より早かったね……何かあったのかな」

ハンジはエルヴィンの帰郷に喜びの表情を浮かべたが、その笑顔に影が刺した。本当ならば今月末に帰ってくる予定だったのだ。ハンジは立ち上がり、エルヴィンに会いに行くことにした。部屋から一歩出れば、それでもう城の雰囲気が変わっているのがわかる。階段を勢い良く上り、久々の太陽を身体に浴びる。太陽といってももう夕日だ。つまり、エルヴィンは日光が照りつける中をかけて戻ってきたということになる。やはり何かあったのではないかとハンジは勘ぐった。

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