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名前がリヴァイの部屋で本を読んでいる間、リヴァイは洗濯機から洗い物を取り出していた。風呂場に干すらしく、先ほど手伝いに向かった名前は追い払われてしまった。読んでいた本は読み終わってしまった。仕方なく名前はソファーに座ってテレビ番組を眺めていた。休日の昼間の番組はあまりおもしろくない。この時間帯、名前毎日見ている昼ドラは休日のためやっていない。チャンネルを回していっても、見ようと思うものはなかった。

「あ、終わりました?」
「ああ。出かける準備をしろ」
「えっ、どこに行くんですか?」
「家電量販店だ…洗濯機を買い直す」

ああ、なるほど。と名前は納得した。まだ新しいものと知っているのでもったいないなあ、と思いつつ、リヴァイに従う。リヴァイは名前が素直に頷いたのを見て安堵した。これでごねられたらどうしてやろうかと思っていたのだ。名前はここにいることを選んだ。

「早く着替えてこい」
「はーい」
「少し洒落た格好にしろ」

リヴァイの寝室にある洋服ダンスの一番下は名前の服が入っている。名前の行動範囲は基本的に徒歩圏内のため、Tシャツとジーパンが大半を占めていたが、二着ほどおしゃれなワンピースがあった。紺色のワンピースを手に取り、名前は素早く着替える。ストッキングをはいて、髪を整えた。ストッキングというものを名前はこの世界で初めて知った。着替え終わってリヴァイの元へ行く。

「似合っているな。悪くない」
「なんか照れますね」

膝丈のスカートをはく習慣がなかった名前はふわふわと揺れる布の感覚と、スースーする感覚が慣れないようだった。

「化粧品も買ってやる」
「えっ、いいですよ」
「お前の年頃の女は化粧をするのがマナーみたいなもんだ。出かける時ぐらい着飾っても罰は当たらないだろう」
「…はい」
「お前は元がいいんだ。それを生かせ」

名前にとってこのワンピースとストッキングだけでも十分着飾っているのにそのうえ化粧までするのか。夜会のようだ、と思った。貴族の夜会ではドレスを着て髪をまとめて化粧をした綺麗な女性が沢山いるらしい。エルヴィン団長から聞いた話だから本当かどうか分からないが、きっと今の名前はその女性たちと近い格好をしているのだろう。

「貴族のお姫様になった気分です」
「それはよかったな」
「はい!」

リヴァイが名前の髪を耳掛けた。彼の準備は整っているようで、名前の手を引いてそのまま家を出た。慣れないヒールは名前の足取りを遅くする。すっかり慣れた町並みを眺めながら名前はリヴァイの少し後ろを歩いた。駅でリヴァイが切符を買っている間、宝くじ売り場を眺める。

「おい」
「あ、はい。すみません。ぼうっとしていました」
「そういえばこないだ買っていたな。もう結果はでたのか?」
「たしか来週に出ると思います」
「そうか」

リヴァイは名前に切符を渡し、改札内へと導く。彼女はまだ二回しか電車に乗ったことがない。長い鉄の固まりがホームへ突っ込んでくるのを怯えたように見ていた。ドアが空き、中から乗客が出てくる。突っ立ったままの名前の手を引いたリヴァイは端に寄り、そのまま電車に乗り込んだ。閉まったドアに背を預け、手すりにつかまろうとした彼女の手を引く。

「やめろ。綺麗じゃない」
「えっと、でもよろけそうです」

名前は扉にもたれ掛かるリヴァイを見て、承知がいった。彼女も同じようにもたれ掛かる。家電量販店は二駅先だ。そこに着くまでこちら側の扉は開かない。電車の扉についた窓から外を眺め、勢い良く通り過ぎて行く光景に目をかがやかせる。名前は立体機動装置で飛ぶときの光景に似ていると言っていた。彼女の体を扉から引かせたリヴァイは電車から降り、改札を出る。少々もたつく彼女が愛らしかった。

「切符どこに仕舞ったか忘れてしまって」
「まあいい」

言い訳をする名前に苦笑を浮かべながらリヴァイは半年ぶりとなる家電量販店に足を踏み入れた。後ろからついてきていた名前は店内の明るさと音楽、並ぶ家電に目をぱちくりとさせる。立ち止まった彼女に店員が話しかけてこようとしたのを察知した名前はすばやくリヴァイの腕にしがみついた。

「そんなにひっつくと歩けねェだろうが」
「いや、あの、びっくりしちゃって。すごい見られてたし話しかけられそうだったんで」
「名前よ。お前人見知りだったか?」
「いえ」

腕を緩めた名前はそのままリヴァイに続いて洗濯機コーナーを見に行く。あっ、と彼女が声をあげ、一つの洗濯機を指さした。

「これ、家にあるやつですよ」
「ここで買ったからな」

リヴァイから離れ、名前は様々な洗濯機を覗きこんでいった。適当にボタンをおそうとするのを止め、リヴァイは各洗濯機の機能をチェックしていく。自動槽洗浄がついているもの、静かなものがいい。そこに焦点をあてたリヴァイは候補を絞っていった。洗濯のたびに、洗濯機を洗う技術!!と書かれたPOPが目を引いた。顎に手を当てて機能を見比べるリヴァイに店員が声を掛けた。

「洗濯機でお悩みですか?」
「ああ。買い換えようと思ってな。自動槽洗浄がついて、静かなものがいい」
「洗濯容量はどのくらいでしょうか?」
「…二人だとどのくらいだ?」
「7キロから9キロぐらいだと思います」

リヴァイの腕に名前が再び腕を絡めた。ちらりと女性店員を見て、リヴァイをみる。妬いているわけではないが、疎外感を覚えたのだ。店員は名前を見て、奥さんですか?と尋ねる。リヴァイは曖昧に頷いて見せた。さり気なく左手を隠す。

「今人気なのはこれとこれです。あとはご予算次第ですね……」
「分かった。少しこいつと相談してみる」

店員は笑顔で頭を下げて他の客の元へ行った。彼女が去ると名前は腕の力を少し緩める。結局、名前が選んだ斜めドラムの9キログラムを購入した。届くのは明日らしい。ついでに今ある洗濯機は引き取れるが、どうするかと聞かれたリヴァイは、ふと部下のことを思い出した。近々エレンが一人暮らしをするとか耳に挟んだ気がする。後でも大丈夫と言われたので、それに甘えることにした。

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