13

 
宝くじの換金をした名前が買いたいとねだったのはお酒だった。スーパーの酒コーナーで名前はもう三十分程動かない。最初はワインを買うつもりだったらしいが、チューハイやらサワーなど初めて見る酒が気になってしょうが無いようでずっと迷っている。あれはなんだ、これはどういったものか、とリヴァイに尋ね続けた。呆れ返ったリヴァイはとりあえず、とビールをカートの中に放り込む。

「ウイスキーとリキュールなら家にあるぞ」

瓶に手をのばそうとした名前はその言葉で手を引っ込めた。そして缶が並ぶラックへと戻り、ひとつひとつ手にとってどんなものなのか想像する。果物なんて滅多に食べることができなかったためか、全く想像できなかった。おすすめは何か?と聞くとグレープフルーツの絵が書かれた缶をリヴァイは指した。

「うーん。じゃあ、これにします」
「お前、酒は強いのか?」
「まあまあです」

名前がカートに入れたのは果物のチューハイとビール。おつまみにとポテトチップスとクラッカーを買った。年齢確認をされることなくレジを終え、日が沈みかけている道を歩いて帰る。リヴァイが荷物を持ち、名前はその隣をぶらぶらと歩いていた。公園が近くなると子供のはしゃぎ声と母親であろう女の叱る声が聞こえてくる。

浅い放射線を描くように、二人の前をボールが横切っていった。サッカーボールだ。ボールはころころと転がり、道路に入っていった。子供が飛び出してきたら危ない。リヴァイがそう思った時、隣の名前は飛び出していた。

「名前?!」

彼女が走って向かったのはボールが転がっていった車道ではなく、公園の入口の方だった。名前が走りだすと同時に飛び出してきた子供が車道へ出るのが先か、名前が抑えこむのが先か。車道に少し入ったところで名前が子供を抱え込んでいた。二人の横を勢い良く車が通り過ぎていく。一台の車がサッカーボールを撥ねた。

「ありがとうございます…」
「気を付けてくださいね」

腕の中にいた子供を母親に渡す。その子供の前にしゃがみ込み頬を挟み込む。車に近づくとあぶないぞ、と言い聞かせる名前にリヴァイはボールを差し出した。とってきたのだ。ボールをリヴァイから受け取り、子供に渡す。

「ありがとうございます」
「いいえ。お気をつけて」

ボールを持って公園に戻っていく親子を見送り、二人は再び歩き出した。名前を車道から遠ざけるようにリヴァイが車道側を歩いた。走っている車に近づくな、と名前に散々言い聞かせたのはリヴァイだ。それを今度は名前が子供に言い聞かせていた。思い出してクスリと笑う。

「どうしたんですか?」
「いや、お前も随分ここに馴染んだなと思ってな。まあ、よくやった。さすがだな」
「動体視力と瞬発力はピカイチなんです」
「足の早さもな」
「子供が飛び出してくる、って思った時、つい身体が立体機動装置をつかう仕草をしたんです」

腰の横で手を動かす名前はケラケラと笑った。走りだす瞬間に、あるはずのない腰の重さを感じたのだと言う。最近リヴァイが気がついたのは、名前は別に自分のいた世界を不幸だとは思っていないということだ。

「お酒は食後にテレビを見ながら飲みたいです」
「ソファーに零すなよ」
「はーい」

ソファーの前に小さなテーブルを置き、そこに買ってきた缶とリヴァイが昔買ったワインとウイスキーを戸棚から取り出して同じようにテーブルに置いた。名前がグラスを持ってソファーに座る。リヴァイが名前の缶を開けてやった。

「いただきまーす」
「おう」

酸っぱい、と名前は声を上げた。ごくごくと飲み、熱い息を吐く。天気予報を見ながら名前はビールにも手を伸ばす。リヴァイの開ける様子をちゃんと見ていたのだろう。簡単に開け、泡を啜って眉を寄せた。

「苦い」
「だろうな」

明日の天気は曇り。ソファーの上で膝を抱えた名前は最低気温を確認した。明日は休日。リヴァイも特に予定はないようだったので、ジムに行きたいのだ。さり気なく明日の予定を確認する。問題ないようだ。名前は早いペースで酒を開けていく。チューハイが空になり、500ミリリットルのビールも無くなった。

「ウイスキーは飲んだことあるか?」
「似たようなものは恐らく。ロックでも大丈夫です」
「酔いつぶれるなよ」

氷をグラスに入れ、琥珀色の液体を注ぐ。名前は喉が熱くなる感覚に目を細めた。頭の奥がじん、とする。名前のグラスが空くとリヴァイはすかさずウイスキーを注いでいく。

「リヴァイさんも飲んでくださいよー」
「飲んでる」
「お酒弱かったですっけ?」
「普通だ。ほら、もっと飲め」

頬を染めた名前がリヴァイにもたれ掛かる。空中を見て、熱い息を吐く。名前の目はとろんとしていた。リヴァイは彼女を膝の上に乗せた。その頬を撫でる。リヴァイの首に腕を回した名前の背中を撫でる。

「帰りたいか?」
「…帰りたくないです。帰って欲しいですか?」
「どうだろうな」

肩から顔を離し、リヴァイの顔を覗き込む。額と額を合わせると、リヴァイの手が名前の背中を直接なであげた。迷っているのだろう。いずれ、支障は必ず出てくる。重なった口からはウイスキーの濃い味がした。

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