14

 
明け方、魘される名前によってリヴァイは目を覚ました。脂汗をかいている。上体を起こし、むき出しの彼女の肩を揺する。名前は小さく唸ったのち、穏やかな寝息に戻った。リヴァイも枕に頭を戻した。

「え?魘されてました?」
「おかげで4時過ぎに起こされた」
「嫌な夢でも見ていたんでしょうかね?全く覚えてないです」
「具合悪いとかないか?」
「特に……」

朝、名前は目玉焼きを乗せたトーストを頬ぼりながら首を振る。リヴァイは納得したようにコーヒーを啜った。一昨日同衾したときにはなにもなかった。ただ寝付きが悪かったのだろう。ネクタイを締め、カバンを持ったリヴァイを名前は玄関まで見送った。

「今日は飲み会ですよね」
「ああ。夕飯は大丈夫だな」
「はい。いってらしゃい」

今日の飲み会は絶対に出席するようエルヴィンから言われている。もう名前を一人に家で置いておいて不安もない頃なので別段心配もせずに飲めそうだ。最近はコンビニにも一人で行けるようになった。念のため、外出時にマスクの着用は義務つけている。

「今日は定時で絶対切り上げるぞ」
「ノー残業!」
「ミスすんなよ!」

新人が沸き立つ。ホワイトボードの今日の日付に赤い文字で飲み会、と書かれているのをみてエルヴィンは苦笑いを浮かべた。隣のリヴァイも眉根を寄せている。いつもよりハイスピードで仕事を片付けていく部下たちを見て、いつもそのぐらいやれと毒づく。

「お前が来るから士気があがってるのさ」
「どうだかな」
「女性陣の張り切り具合は間違いないよ」

エルヴィンの言葉にリヴァイはため息を吐いた。同期一の出世頭が特定の相手もいないとなれば狙われてもしょうが無い。きっと宴会場では囲まれることになるのだろうと想像したリヴァイの勘ははずれなかった。最初こそ遠巻きに見ていたものの、酒が進んでくるにつれ、次第に席を移動しだす。同期と後輩女性に囲まれかけているリヴァイの元に、空気の読めないエレンが乱入した。

「失礼します!お酌させてください」
「エレンと名字か…座れ」
「失礼します」

リヴァイの隣にエレンが座り、エレンの隣に名前が座った。エレンがリヴァイにビールを注ぐ。リヴァイもエレンにビールを注いだ。名前は周りを見て苦笑いを浮かべる。エレンはちくちくと刺さる視線に気がつかないみたいだ。図太いとも言える。

「プロジェクトメンバーに推薦いただき有り難うございました!精一杯頑張ります!」
「お前が適任だっただけだ。足をひっぱるなよ」
「精進します!名前さんもご指導お願いします!」

名前はリヴァイに頭を下げ続けるエレンの髪の毛をぐしゃぐしゃに撫で回した。努力家の彼のことだ。きっと成果を上げるだろう。リヴァイの目線が名前で止まった。リヴァイの指が名前の目の下に触れた。

「隈ができてるぞ」
「あ、最近ヘンな夢見るせいか、寝付き悪いんですよ」
「体調管理はしっかりしろよ」
「はい。次長、注ぎますよ」
「頼む」

エレンと席を変わった名前がリヴァイのコップにビールを注ぐ。リヴァイも名前に注いで、グラスどうしを軽くぶつけた。一気に飲み干した名前は眉間を抑える。コンシーラーで隠したつもりだったが、隠し切れなかったようだ。

「次長こそ隈できてますよ」
「俺のはもともとだ。女が隈なんか作るもんじゃない」
「休日でぐっすり眠れば消えますよ」
「変な夢って言っていたが、どんな夢だ?」
「え」

名前は空になったグラスを揺らした。エレンが同期に呼ばれて言ってしまう。まさかリヴァイがそこに興味を示すとは思わなかった。子供みたいな夢なんですけれども、と前置きをしてから名前は恥ずかしそうに話しだした。

「巨人っていうんですかね、大きな人間の形をした化け物を倒すために戦う夢です。きっと映画の見過ぎですね。あ、でもおもしろいことにエレンとかジャンとかも時々でてくるんですよ。もちろん後輩として」
「…夢は記憶から作成されるっていうしな」
「仕事のコト考え過ぎなんですかねえ…」
「さあな。だが、随分ファンタジーな夢だな」
「ファンタジーはファンタジーでもホラーですけれどもね。医療ドラマの見過ぎなのか、巨人が人を食べるんですよ。そのときの出血とかが鮮やかすぎて…もう寝起き最悪で」

名前の隣に戻ってきたエレンが彼女のグラスにカシスオレンジを注いだ。空になったピッチャーを机の端に寄せる。エレンも名前の夢を面白そうに聞き、自分がどんなふうに戦っていたかを聞き出そうとしている。

「残念ながらエレンが戦っているところは見てないわねー。ダメな兵士だったのかも」
「ちょっと酷いですよ名前さん。じゃあ次長は?」
「リヴァイさん?内緒」

リヴァイの肩をエルヴィンが叩いた。向こうで飲もうというお誘いだ。名前の夢のつづきは気になったが、また聞けばいい。ビールが半分ほど入ったグラスを持ってエルヴィンとともに奥のテーブルに座った。ミケの前に置いてある唐揚げにフォークを伸ばした。

「猫の写真が見たい」
「ない」
「なぜだ」
「お前には俺が猫相手にカメラを向けるような男に見えるのか」
「……」

ミケは猫が好きらしい。しきりに種類は?餌は?と聞いてくるのを適当に返す。ミケの実家の猫を見せられてエルヴィンは小さく笑みを浮かべた。アメリカンショートヘアだろう。おっさんと猫のツーショットをさんざん見せつけられても、全く羨ましいと思えないリヴァイはジントニックを注文した。

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