03


翌日の朝、リヴァイが朝食と昼食を用意し、玄関まで見送りにきた名前に、リヴァイはメモを突きつけた。勝手に外出しないこと、テレビと冷蔵庫以外の機械類をいじらないこと、誰かが訪問しても応対しないこと。名前はそれが読めないが、つまりなにもしなければいいと解釈して頷いた。

「いいか、大人しくしておけ」
「了解しました!」
「一八時までに帰れるよう努力する」

左胸に右手を当て、敬礼の姿勢をとった名前。リヴァイが出て行ったあと、リビングに戻った彼女はソファーの上で丸まった。何もするなと言われたのだ。寝るしか無い。昨日は緊張のせいか全く眠りにつけなかった。おかげで少し気分が悪い。リヴァイから借りたジャージを着た名前は再び毛布を被って眠りについた。


■ ■ ■


リヴァイの家から会社まで電車で三十分程である。いつものように新聞を広げているのだが、どうにも集中出来ない。家においてきた名前は大丈夫だろうか。そう考えているうちにも乗り換えの駅に着いていた。乗り換えて二駅。いつものように会社のエントランスを通り、受付を通り、エレベーターの13の数字を押す。滑り込みで入ってきた人物がリヴァイの顔をみて慌てて頭を下げた。

「おはようございます!」
「ああ…!?」
「?」

名字だった。ゆるく巻かれた髪としっかり化粧された顔はいつも通りの彼女だ。化粧をした顔もすっぴんの顔もそこまで変わらないのだな、と下世話なことを考えてしまった。少々幼くなるだけだ。前で組まれた手は傷跡一つなく綺麗だった。チン、と音がなり、エレベーターの扉が開く。お先にどうぞ、と名前が譲った。

「おはようございます!」
「ああ」
「あっ、次長!お聞きしたいことが…」

会議の資料を手にしたエレンが駆け寄る。自分のデスクに付きながらエレンの持ってきた紙を見る。これは前回の会議の資料だ。ここからの業績の伸びがどうのこうのと言い出すエレンに応対するリヴァイの目の前を今日の資料を抱えた名前が小走りで通る。

「はい!了解しました…あ、昨日の件大丈夫でしたか?」
「ああ。急に悪かった」
「いえ」

エレンが笑顔を浮かべて自分のデスクに戻った。十二時になり、昼休みとなる。ランチに誘う部下を断り、リヴァイは持ってきた弁当箱を出した。名前の昼食を作るついでにつくったサンドイッチだ。其れを見たエルヴィンが声をかけてきた。

「おや、リヴァイ。彼女の手作りかい?」
「バカ言え」
「お前が弁当など珍しいな」

エルヴィンはリヴァイの弁当を覗きこむ。プチトマトが添えてあるのをみて吹き出しそうになった。本当に珍しい。水筒に入れたお茶を飲みながらリヴァイはエルヴィンの昼食を覗きこんだ。いつものように手の込んだ二段弁当である。

「あげないぞ」
「いらねェよ」
「私は一応、部長なのだが」

今更なんだとリヴァイは眉を上げる。エルヴィンも諦めたらしい。大人しくバケットにかじりついた。エルヴィンは親からマンションを譲られている。そこの大家も副業としてやっているのだが、上の階にすむ住人が毎朝ついでだから、と弁当を作ってくれるらしい。ちなみにハンジもエルヴィンの管理するマンションの住人であり、お弁当のおすそ分けをいただいているらしい。エルヴィンとハンジの弁当が一緒なことであらぬ噂も立ったが、いまでは当たり前すぎて誰も突っ込まなくなった。

「名字さんのプレゼンはいいね。わかりやすいし、綺麗な声だ」
「セクハラだぞエルヴィン」
「おっとこれもセクハラに入るのか…エレンのプレゼンも良かったよ。若手らしく活気がある」
「そうだな」

朝イチの会議でのプレゼンにつかれた二人はお疲れ様会もかねてちょっと高級なランチに行くらしい。名前も後輩のエレンを可愛がり、エレンも新人教育係だった名前によくなついている。いいコンビだ。

「リヴァイ。そういえば有給届けをだしていたな」
「ああ。一段落ついているうちに消化しないと上が煩い」
「私もそろそろ消化しないといけないな。ハンジにも言っておこう」
「ミケはこの間消化していたな」
「そうだな」

有給をとってもすることがない。家族が居ないとこうも暇なものだな、とぼやいていた記憶がある。花の独身組であるリヴァイもそれに同意した。だが、今回はやることがある。家に転がり込んできた名前の世話をせねばならないのだ。

「俺はペットの世話で上手く潰れそうだ」
「おや?ついに寂しくなったのか?」
「まさか。転がり込んできた野良猫が居付きやがった」
「へえ。珍しいな」
「ああ、全くだ。部屋においてきたせいで気がかりで仕方ない」

エルヴィンは好奇の目を向けた。潔癖の嫌いがあるリヴァイが猫を飼うとは。しかももと野良猫。一体なにがあったのだろうか。まあ、なにかあったのだろう。そこは深く詮索しないほうがいいと判断したエルヴィンは今度写真でも見せてくれよ、とだけ言った。

「なかなか賢いみたいだが、やはり部屋に置いておくのは心配だ」
「躾は進んでいるのか?」
「まあまあだな。とりあえずおとなしくはさせている」
「かわいがってやれよ」
「……おう」

おかしな間があったが気にしない。ぼちぼちとフロアに戻ってきた部下たちを尻目にリヴァイは午後の業務にとりかかった。今日は、絶対に残業しない。次長の宣言にフロアの空気がぴんと張ったものになった。

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