04

 
家に戻ってきたリヴァイが見たのは鏡を必死に磨く名前の姿だった。リヴァイの姿に気がついた名前は敬礼の姿勢を取り、「お疲れ様でした兵長!」とハキハキした声を上げる。敬礼をやめろ、と言うと彼女は腕を下ろした。次の指示を待つ彼女にげんなりとする。これは野良猫ではない。躾されすぎている忠犬のようだ。

「飯はちゃんと食ったか」
「おいしくいただきました!とてもおいしかったです!」
「そうか…」

完食された皿は机の上で一箇所に纏められていた。それを流し台に運んだ。名前はそんなリヴァイの後ろを二歩ほど離れてついてまわる。食べ終わった食器はここに置くように、と指示すると了解しました!と声を上げた。少し煩い。

「テレビでも見ておとなしくしていろ」
「はっ」

名前は指示通りテレビの前のソファーに座り、電源を付けた。国営放送がニュースを伝えている。それを食い入るように見ている彼女に夕飯を出すために料理を始めた。テレビは名前の教育に役立ちそうだ。見ているだけでここの文化や常識を吸収できるだろう。面倒だからパスタでいいかと野菜を切り始めるリヴァイの後ろにいつの間にか名前が立っていた。驚くリヴァイに名前も驚く。

「お前…なにしてんだ」
「兵長が食事の準備をなさっているのに私が寛いでいるわけにはいきません」
「お前はできないんだから仕方ないだろう。邪魔だ」
「…………野菜を切ることぐらいできます」
「じゃあ、頼む。先ずは手をしっかり洗えよ」

ハンドソープをタップリと彼女の手に出し、泡だ出させる。リヴァイのオッケーサインがでてから包丁と野菜に手を触れさせた。さくさくと切っていく様子から、確かになれているのだろう。リヴァイはその隣でIHの上に鍋をセットし、肉を炒め始めた。野菜を切り終えた名前は炒められる肉を目を輝かせて見ている。

「あぶねえから向こう行っていろ」
「はい」
「手はもう一度洗え」

リヴァイがやったようにポンプを押し、水で泡だたせる。さっぱりと洗った名前は再びソファーの上で膝を抱えた。キャスターの喋る内容と動画で内容を咀嚼する。キッチンから漂ういい匂いにふらふらと連られそうになったが必死で抑えた。そしてついに声がかかる。

「名字、運んでくれ」
「はい」

机の上に運ぶ。どの配置で運べばよいか悩んだが、大人しく向かい合うように並べた。一人暮らしに不釣り合いなこのテーブルはデザインに一目惚れしてしまったためだ。おかげで部屋が少し狭くなってしまったが仕方ない。

「いただきます」
「おう」

リヴァイが食べ始めてから食べる名前に毒なんかいれてねーよ、と言ったリヴァイだったが、名前は違いますと反論した。

「上官より先に食べるわけにはいかないので」
「…俺はお前の言う上司とは違うんだがな」
「習慣です」

目の前でパスタを幸せそうに食べる女はやはり会社にいた名前と瓜二つだ。声も、外見も。厄介なことになった。リヴァイのTシャツにジャージを着る彼女はプライベートそのものだ。部下のプライベートを勝手に覗いている気分である。

「足りたか?」
「はい」

リヴァイと同じ量を盛ったにもかかわらず名前はペロリとそれを平らげていた。本当に足りたのだろうか。あとで果物でも出すか、と気を使っている自分が居た。先ほど学習したように食べ終わったものを流し台に持っていく名前の頭をよしよしと撫でた。部下は叱り飛ばしてばかりだから、たまには褒めて伸ばしてみよう。そんなリヴァイの気まぐれだったが、名前は耳まで赤くして俯いた。

「へ、兵長が…」

ぶつぶつと何かを唱えている。なにやら失礼なことを言っているらしい。リヴァイは容赦なくその頭をはたいた。飴と、鞭だ。頭を叩かれたにもかかわらず、おお、と関心したような声を上げる女にマゾヒストかと思ってしまった。

「兵長は基本的に粗暴な人だったので」
「ほう」

リヴァイの家は1LDKだ。洋室はリヴァイの寝室になっている。そのため、名前は机とソファーを端に寄せたダイニングに布団を引いていた。流石にリヴァイの寝室の床に布団を引くわけにはいかない。そんなスペースもない。昨日引きずりだした予備にと買っていた布団はすっかり名前の寝床になってしまった。

「こんなふかふかな布団で眠れるなんて…こちらの世界は贅沢ですね」
「そうか」
「お肉も食べられるし」

遠回しに肉をねだられている気がした。今度の特売で安かったらステーキでも買ってやろう。案外この奇妙な同棲生活は悪くないのでは、とリヴァイは思い始めていた。

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