03

 
特別任務だ、と言われて呼び出されたミケはチャイムが鳴り響く校門前で見張るリヴァイに白い目を向けた。ここの制服は見たことがある。リヴァイの手帳の中に大切に仕舞ってある写真に写っている少女がここの制服を着ていた。

「お前やっぱりストーカーだったのだ」
「やっぱりとはなんだ。それに俺はストーカーじゃない」
「……」

それを見つけたのは偶然だった。会議の途中、スケジュール確認をするリヴァイの手帳から一枚の写真が落ちたのだ。其れを拾ったのがミケだった。入学式の看板を背に真新しい制服を纏った女の子が満面の笑みで笑っている。裏をめくると日付があった。今年のものだ。

「おいミケ、返せ」

ミケから受け取ったリヴァイはその写真を大切そうに挟み直した。小さく微笑むその顔は初めて見るもので、はっきりいうと気持ちの悪いものだった。鉄仮面と呼ばれるリヴァイからは想像もつかない。その件をミケはエルヴィンに話すと、エルヴィンは苦笑を浮かべた。

「あいつのデータフォルダを見てみろ。しばらくリヴァイと目をあわせられないぞ」
「……」
「ちなみに隣家のお嬢さんだそうだ。リヴァイが高校生の時からのつきあいらしくてな。妹のように思っているんだろう。随分な溺愛具合だ」
「可愛いのか?」
「清純っぽくてとても綺麗な子だよ。リヴァイが溺愛するのもわかる。以前はデスクの上にも写真を飾っていたんだけどね、私が褒めたら隠してしまったよ」

それだけでミケはリヴァイのデータフォルダの中に大量のなにがあるのか理解した。そして現在、ミケは隣に立つリヴァイのスマートフォンの画面を上から眺めていた。画面一杯の画像データ。そこに写っているのはどれも同じ少女だ。そしてそのうちの一枚をミケの前に突き出す。

「こいつが通ったら教えろ」
「………」
「なんだ」
「…この任務は何のための任務なんだ?」
「俺のための特別任務だ」

校門を見張ること十分過ぎ。リヴァイが反応した。そして禍々しいオーラを放つ。何かと思ってミケが目を細めると、ちょうど写真の少女と学生服の少年が並んで歩いて校門を出るところだった。自転車を並んで押して歩き、楽しそうに談笑していた。真面目そうなそばかすの浮いた少年を睨みつけるリヴァイをミケは小突く。

「まさかお前、あの子の恋路を邪魔する気か?いい年した大人がやることじゃないぞ」
「恋路だと!?ふざけるな。名前はあいつに気などない」
「……」
「追うぞミケ」
「……一週間昼飯おごれよ」
「お安い御用だ」

ストーカー行為に加担するつもりはないが、仮にミケが行動を共にするのを拒んだとしてもリヴァイはこの行為を止めないだろう。ならば一緒に動き、リヴァイを見張った方がいい。駅の駐輪場に自転車を止めた二人は電車に乗る。リヴァイとミケも後を追った。私服の二人は街に溶け込む。こんな所で尾行スキルが役立つとは思わなかった。制服姿の学生二人は座席に座り、名前が鞄から出した参考書を二人で覗きこんでいる。その近さにリヴァイは舌打ちをした。

「リヴァイ。そう睨むな」
「あの野郎…名前にべたべたしやがって」
「身を乗り出すな。バレるぞ」

ミケはリヴァイの後ろ襟を掴んだ。隣の車両の二人が気になってしょうがないのだろう。リヴァイのチクチクとした視線にも気づかずに、名前はマルコに化学を教えてもらっていた。今日の宿題だ。シャーペンを取り出しふむふむと頷く。マルコは教え方が上手い。解けた、と嬉しそうに笑う名前にマルコの頬も緩んでいた。

「ここはテストにも出ると思うよ」
「しっかり復習しておきます」
「ハンジ先生のテストは記述ばっかりだから暗記じゃ難しいと思う。まあ、名字なら大丈夫だと思うけど。去年エレンが苦しんでたから」
「イエーガー先輩って化学苦手なんですか?」
「化学ってか勉強全般が好きじゃないみたい。テスト前にアルミンのノート借りてまる覚えしているの毎回見るし」
「……なるほど」

確かに日頃からコツコツと勉強するタイプには見えない。マルコいわく、体育だけは毎回5がつくそうだ。さすが陸上部のエース。名前の通う高校の陸上部は強い。一昨年、ミカサやエレン、アルミンが入部したことで全国レベルまで行くようになったとか。中学で陸上部だった名前も勧誘されたが断ってしまった。せめてマネージャーでもしない?とアルミンも声をかけてくれたが大学受験をするつもりの名前に強豪校の部活は手に負えないと思ったのだ。

「そういえばミカサが全国に行くらしいよ。今日決まったって言ってた」
「えっ、さすがですね!応援に行きたいです」
「来月の第三週末かな…でも地方だった気がするよ」
「ミカサ先輩に聞いてみます」

ミカサにメールを飛ばす。リヴァイが買ってやったスケジュール帳を開く名前にリヴァイは眉を寄せた。まさかまた遊びに行く約束をしているのではないか。カモフラージュとして持った新聞紙がくしゃりと音を立てる。之をストーカーと呼ばずになんと呼ぶのか。ミケは大きなため息を吐いた。

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