04

 
若者向けのその店でリヴァイとミケは浮く。さて、どうしたものかと思った。土曜日ということもあってなかなかに混んでいるから、上手く紛れることはできそうだ。だが、なによりもこの店の雰囲気は入りにくい。店の中を見渡しても、女の子の集団か、カップルしかいない。男の二人連れは目立つだろう。

「リヴァイ。俺はお前とこの店に入るのは嫌だぞ」
「…俺もだ。くそっ。まさかこんな甘ったるい店だとは思わなかった」
「ペトラを誘った方が良かったな」
「そうかもしれないが、万が一俺と女が休日こんな店に来ていることを何らかの形であいつに知られた時に誤解されたら困る。リヴァイさん不潔なんて言われたら耐えられない」
「……そうか」
「あの年頃は繊細なんだ」

そもそも尾行がばれた時点で嫌われると思ったが、もう何も言うまい。ミケは店の中を覗ける場所はないかと探した。予約をとっていたらしい二人はテラスの席に座った。場所を確認したリヴァイは一旦店から離れる。

「あそこのカラオケの窓からなら見える」
「入るか?だが部屋の指定は難しいだろ」
「見たところ今は人がいなさそうだしいざとなったらお札がある」
「手帳はやめてくれ」

ミケとリヴァイが向かいのカラオケ店に入ると機種の希望を聞かれた。そこでリヴァイはさも以前来たことのあるように繕い、三階の左角のあの部屋が良かったのだがと言う。二時間制になるがその部屋は使えるらしい。

「神は俺に味方したな」
「……そうだな」

店を囲う植物の塀も三階からなら障害にならない。白いブラインドの隙間からテラスを監視するリヴァイ。ミケはワンドリンクで注文したモヒートをすすった。

「リヴァイ、腹が減ったのだが」
「好きなだけ頼め」
「承知した」

耳にイヤホンを差し出したリヴァイにメニューを捲るミケの手が止まる。まさか彼女に盗聴器を仕込んでいたのだろうか。ドン引きするミケにリヴァイはさっきテラスの席にマイクを投げ込んだとハンドサインで示した。名前とマルコの交わされている会話はありきたりなものだが、それだからこそリヴァイは気に入らない。

「ポテトフライにシーザーサラダ、枝豆とグラタンを頼む」

ミケは個室内についている電話で注文を済ませた。リヴァイは未だ真剣な顔でブラインドから少女を見守っている。

「リヴァイ、店員がくる。少し自然にしておけ」
「ああ……」

名残惜しそうに窓から離れたリヴァイはソファーに腰掛け歌本を捲る。しばらくすると両手に料理を持った店員がやって来た。店員がいなくなるや否やで窓にかじりつくリヴァイをミケは軽蔑を込めて見た。

「彼女はどうだい?」
「大学と成績の話をしている」
「ほう……真面目だな」
「指定校推薦を狙っているからな。ちなみにあの男は生徒会の先輩らしい」

ミケはグラタンを口に運ぶ。リヴァイも余裕が出て来たのか飲み物を口にした。

「そういえば、例の引ったくり犯、空き巣にも手を出していたらしいぞ」
「あぁ、この町だったな。昨日も被害者が出たと聞いたが」
「名前に早く帰るよう言っておくべきだったな」

リヴァイはスマートフォンのLINEアプリで名前にメッセージを送った。なんと白々しい、とミケはじと目でリヴァイを見たがリヴァイの意識はミケから名前に移っていた。時間を有効活用させようとミケは持ってきたパソコンを開く。丁度話題に上がった引ったくり犯の情報に目を通した。それに飽きてくるとミケもブラインドの隙間から二人を見る。

「可愛いだろ」
「…そうだな」
「あいつこの後どうするんだ?まさか夕飯まで一緒に食べるんじゃないだろうな」
「いいじゃないか夕飯くらい」
「ふざけるな。それじゃデートじゃねーか」
「いや、どっからどうみてもデートだろう」
「……」

メキッと嫌な音がしたと思ったらリヴァイの持っていたバインダーに罅が入っていた。割れないだけ力をセーブしたようだ。リヴァイの目の下の隈は一層濃くなったように思われる。あ、やばいなと思ったミケは彼の手からまずバインダーを取り上げ、落ち着くよう飲み物を渡した。リヴァイはアイスティーを啜る。

「お前防衛大にいたんだろう?よく離れて暮らせていたな」
「ああ。心配で死ぬかと思った。特に最初の一年は全く家に帰れなかったからな」
「……」
「離れたくないのによく防衛大に入ったな」
「…まあな。しかも俺が大学で離れている時に思春期に入ったもんだからいつの間にか敬語になっていやがった……」
「………学科は?」
「人間文化だ」

ああ、だから公安にとミケは納得した。エリートコースを驀進している男だというのに夢中になるのはどこからどう見ても普通の女子高生。十以上も年が離れていると知って困惑した。リヴァイは名前から返信の帰ってきたLINEを見て口角を上げた。

「ミケ。十八時で解散だ」
「…了解した」

現在時刻は十五時。あと三時間で解散だ。リヴァイのスマートフォンの画面をのぞき込むと夕飯の約束が漕ぎ着けられていた。彼女の目の前の少年に同情する。これではデートの邪魔以外のなにものでもない。スマートフォンから手を離した名前を見てリヴァイは舌打ちした。

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