15

外部犯の犯行はありえない。つまり、この会議室にいる誰かが殺人者だということだ。いつもはへらへらしているハンジさえもこの状況には怒りを覚えているようだった。ひとまずペットボトルだけがみんなの手に渡る。だが、誰も手をつけようとはしなかった。

「状況説明は必要かな?」
「…いらねェだろ」
「じゃあ…うーん。とりあえず事情聴取ってやつ?まあ疑われているのは個室の私達だけどね」

ハンジの言葉にミケが鼻で笑った。高校生たちの刺々しい視線が刺さっている。午前十二時から二時にかけて何をしていたかと問うと、皆寝ていたと言う。まあ、そうだろう。ただ、名前だけが十二時前に出歩いたことを白状した。アニは名前が起きたことに気が付かなかったらしい。

「寝付けなかったので誰かいないかと思って廊下を歩いていました。五階を一周した所でリヴァイさんに会って、朝まで一緒でした」
「こいつが俺の部屋に来た時が丁度十二時ぐらいだ」

リヴァイもそれを肯定する。犯行時刻に近い時間に出歩いていたのは名前だけのようだ。ハンジも困った顔をした。

「誰かに会ったりしなかった?」
「誰もいませんでした」
「そっか…さて、どうしようか」
「まあ個人行動は謹んでもらおう。基本は全員で行動。何か会った時には自分が信用できる人間を見極めてそいつと行動することだな」

とりあえず朝食を、となったがこの状況では食欲も出ず、会話も進まなかった。リヴァイも全く食欲が出なかったが、体力を落とすわけにはいかないので水気のないカロリーメイトを機会的に口に運ぶ。名前もリスのようにカロリーメイトをかじっていたが、半分ほど食べた所で手を止めてしまった。リヴァイは食べるよう促す。しぶしぶ名前は食事を再開した。

「しっかしどうしてペトラたちが殺されたんだろう?」
「さあな…しかし戦力が大幅に削られたのは痛い。街から出れねぇぞこれじゃあ」
「鬱憤晴らしに人を殺したいならもっとやりやすい相手がいくらでもいるのに」
「この街から出さないことが目的かもな」

ハンジとリヴァイの会話に名前は耳を塞ぎたくなった。目を伏せる名前にミカサが近づいてきた。ミカサはエレンとアルミンのいる方を指で指す。

「よかったら、向こうで食べよう」
「いいんですか?」
「エレンが心配していた。アルミンも話を聞きたいと言っている」

名前はリヴァイに視線で訴えると小さく頷いてYESの返事が返ってきた。ミカサと一緒に反対側の部屋の隅に移動する。エレンとミカサの間に座った名前は持っていたカロリーメイトを箱に閉まった。

「朝、名前が居ないって女子が騒いでいたときエレンが大慌てしてたよ」
「ご心配かけて申し訳ございません」
「無事ならそれでいいんだけど、ちょっと聞いてもいいかな?」
「はい」

アルミンの問いに名前が答えると彼は顎に手を置いて考える仕草をした。アルミンは全国模試で何回も一位をとっている成績優秀者だ。きっと今、彼の頭のなかでは名前が考えつかないようなことが考えられているのだろう。

「寝付けなかった、と言ったよね?」
「はい」
「そう。それが通常の状態なんだ。いくら防火扉が閉まっていて安全だと分かっても、熟睡できるわけがない。もしかしたら窓を突き破って侵入してくる奴がいるかもしれないなんて考えたら安心して眠れるはずがないんだ」
「?」
「だけど、みんなゾエ先生の問に、寝ていて物音には気が付かなかった。と答えた」

エレンが首を傾げた。エレン自身も熟睡していて起こされるまで起きられなかったのだ。久しぶりに十分な休眠を摂った体は軽い。ミカサもしっかり眠れたらしく、隈が薄くなっていた。

「五階に降りた時、リヴァイさんだけが起きて気がついたんだよね?」
「はい」
「名字とリヴァイさんだけが眠気を催してなかったと考えられる」
「リヴァイさんはすごく眠そうでしたけど」
「…もしかしたら、僕らは睡眠薬を盛られたのかもしれない」

アルミンの結論に三人は黙った。確かに睡眠薬を盛られたのならば、疲労も溜まっていたことだ、熟睡できたのも理由がつく。盛ったとしたならば、いつ盛られたのだろう。食事は皆、個別包装されており、別だ。ミカサが答えた。

「ポットに仕込めば可能」
「そうだ。昨日は給湯室で見つけた紅茶のパッグを使ってポットでお茶を注いだ。その中にいれておけば全員に渡るし、確実に飲ませられる。ここは病院だ。睡眠薬は探せばどこかに必ずある」

おお、とエレンがマヌケな声を上げた。アルミンの仮説には説得力があった。どうして自分には効かなかったのだろうと名前は首を捻る。薬が効きにくい体質でもない。

「あ…牛乳と薬を一緒に飲むと効果が抑えられるって言いますよね?私、昨日ミルクティにして飲みました。リヴァイさんのコーヒーにもミルクを入れたはずです」
「ミルク?そんなものあったか?」
「面会室の棚に粉ミルクがあって、それを使ったんです」
「へぇ」

アルミンが頷いた。その可能性はある。牛乳は胃に粘膜を張ってしまうため、薬効成分が十分に吸収されないことが多い。恐らく睡眠薬もさほど強いものではなかったのだろう。名前に対する疑問は解けた。

「犯行時間に君はリヴァイさんといたことが証明されているし、どうしてみなと違って眠くなかったのかも証明できた。僕は名前を信じるよ」
「ありがとうございます」
「薬の件はまだ内密にしておこう」

ミカサとエレンはすぐに頷いたが名前はこの状況で隠し事をするのはどうかと思った。もし何か聞かれたら、リヴァイさんにだけは言おう。そう決めて名前も頷いた。アルミンの頭脳はおそろしい。すぐに犯人まで辿り着きそうだと思い、少し震えた。

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