16

 
昼になっても一向に状況は変化しなかった。ハンジとミケとリヴァイは給湯室で何やら話し込んでいる。高校生も各々でグループを作って小さな声でなにかを話し合っていた。空気が悪い。せめてこのナースステーションから出られればいいのに、と思った。

「病室に帰っちゃだめなんですかね…大人数で行動するなら大丈夫そうですけど」
「俺達はあの人たちを監視しているんだ。部屋に戻るのはあまり得策ではないな」
「そうですよね…」
「まあ、女子だけでも休ませてあげたほうがいいんじゃないか。先生たちに聞いてみるか?」
「…許可すると思うか?」
「名前に行かせるのはどうだろう」

サシャがベッドに戻って寝たいとぐずるとそれをライナーが宥めた。どうやら頭が痛いらしい。ベルトルトとアニがその会話に加わり、ユミルが名前の方を向いた。エレンたちといる名前がリヴァイと親しい仲なのは見ていてわかる。ユミルはにやにやしながら名前に近づいた。クリスタがユミルの後についてエレンたちが座る輪へ乱入した。

「名字さんよぉ…あんたあのおっさんと一夜を過ごしたらしいじゃないか。身体売ってまで一体何を企んでいるんだ?」
「ちょっとユミル!なに聞いてるの!」
「クリスタも気になるだろう?」
「でも…」

ユミルの言葉にエレンとミカサは不快感を露わにした。名前は眉を下げる。一般的にそう見られても仕方ないのかもしれないが、表立って言われるとは思わなかった。

「リヴァイさんはこの中で一番戦力になるし頼りになる。取り入って損はねェぜ」
「だからユミルやめなよ!ごめんね…」
「いえ…」
「で?なにしてたんだ?」

ユミルが名前をエレンたちから引き剥がし、その肩を抱き込んだ。クリスタがそれを必死で止めている。この行動で名前がクリスタに対して好感度を上げてくれれば儲けモンだ。ユミルはクリスタを反対側の手で抱き込んだ。三人の頭がぶつかる。

「リヴァイさんとは私が小さい頃から家が近所の知り合いです。お兄ちゃんのようなものですからそんな関係じゃないです」
「ほォ…あんたがそう思ってても向こうはどうだろうなあ?あの人独身だろ?」
「関係ないと思いますよ。リヴァイさんに釣り合う女の人がなかなかいないだけじゃないですか?」

名前の信頼にあふれた言動にユミルはどんよりした。クリスタがもがく。聞きたいことは聞けたのでユミルは二人を解放した。

「じゃあ、お前のお兄ちゃんに頼み事が在る」
「?」
「サシャが具合が悪くて休みたいらしくてな。大部屋に戻る許可が欲しい。この状況だから私達は大人に言い出しづらい」
「私が伝えろと?」
「ああ。頼む」
「聞くぶんにはいいですけど、許可が取れるかはわかりませんよ」

ユミルに背を押されて名前は給湯室に向かった。名前がおそるおそる中を覗くと、シンクに凭れかかったリヴァイがどうした?と声をかけた。ユミルに言われたことを伝えるとミケが唸る。

「大部屋からでない約束なら許可できるが」
「まあ、同じ階だ。大丈夫だろう」
「私も一緒に行くよ」
「ハンジが同行する。五人以上で部屋から出ないなら許可しよう…お前も行くのか?」

リヴァイの問に名前は首を振った。ミカサたちとここに残るつもりだ。ぺこりと頭を下げてユミルに条件付きで許可がでたことを告げた。ユミルはほっとしたように名前の髪をかき混ぜる。止めなよユミル!とクリスタが声を上げた。

「部屋に行くのは誰だ?」
「サシャとユミルとクリスタと…アニか。もう一人必要だな」
「じゃあ俺が行く」
「コニー…まあいいっか」

その五人をハンジが連れて大部屋に入っていった。少し広くなったナースステーション。ジャンは椅子に腰掛け仮眠をとっている。ライナーとベルトルトはアルミンのもとへ向かった。入れてくれ、と言われてアルミンと名前は二人が入れるよう間をあけた。

「サシャ具合が悪いのかい?」
「頭が痛いらしい。ストレスだと思う」
「今更かよ、って気もするけどな」

名前の隣に座ったライナーが名前の方に体を向けたため、彼女は驚いた。ライナーは体格もいいうえ身長が高い。威圧感がある。怯えられたライナーは苦笑いを浮かべながら名前に話しかけた。

「ライナー・ブラウンだ。よろしく」
「名前・名字です。ブラウン先輩ですね」
「こっちのはベルトルト・フーバー」
「よろしくお願いします」

名前は頭を下げた。ライナーは留学に行っていたため同級生より歳が上らしい。エレンとも仲がいいらしくエレンの様子から彼をとても信頼しているのがわかった。

「しかし夜中に抜け出すなんてやるな。なんなら最初からアニと代わって貰えばよかったんじゃないか?一人部屋とチェンジならアニも文句は言わないだろう」
「たまたまですって…」
「そうか。今日は自分のベッドでぐっすり寝むれるといいな」

ライナーの軽口に名前はまだ耳まで赤くなる。やめてあげなよ、とベルトルトが控えめに言った。

「なんならお前と名前が代わるか?俺が個室で寝てやる」

今度はベルトルトが顔を赤くした。それをみて名前は、ベルトルトはアニのことが好きなのだと察した。よかったら代わりますよ、と言うとベルトルトは少し考えた後控えめに首を振った。ライナーが吹き出す。

「あの寝相の悪さみられたくないんだろ。もはや芸術だもんな」
「ライナー…」
「修学旅行の時は布団だったから悲惨だったな。エレンなんか顔面蹴られてなかったか?」
「モロに食らったよ」

そんなにベルトルトの寝相は悪いのだろうか。想像ができない名前が首をかしげる。今日の夜、果たして眠れるのだろうかと名前は一人思案した。

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