01

小さい頃から受験、受験。小学校受験、中学校受験を失敗した名前は両親の最後の期待を受けて大学受験に全てを賭けていた。別に頭が悪くて受験に失敗してきたのではないと思う。勉強の仕方が分からなかったというか、勉強する気も起きなかったというか。実際に勉強に対して本格的に取り組みだした中学三年生からは成績が急上昇した。私立最高峰の空知大学に合格できたのも高校の評定が良くて推薦入試で合格ができたからだ。

「で、そんな真面目な名前ちゃんはどうして今日来てくれたの?」
カルーアミルクが入ったグラスを揺らしながら銀時は隣に座る名前の顔を覗き込んだ。やる気の感じられない銀時の目が半分ほど減った名前のグラスをちらりと見た。
「どうしてって言われましても……」
「私が連れてきたからに決まっているでしょ!」
名前は大学の先輩に連れられてホストクラブ攘夷にいた。初めてのホストクラブはいい意味でも悪い意味でも想像通りだった。慣れない環境故あまり楽しめない名前と対照に先輩は永久指名だという銀時にハートになった目を向けて十分楽しんでいるようだった。
「……先輩、明日一限から講義ですよ。ほら、もう一時ですよ。私眠いんでそろそろ帰りましょう?」
「名前ちゃん酷くない?遠回しにつまらないって言ってない?」

その声を聞いて名前は銀時に改めて目を向けた。銀髪に赤いシャツ、紫色のスーツを粋に着こなしたホストはどうみても誠実そうには見えない。誠実さとホストの人気は相関しないのか、銀時はこのホストクラブでも上位を争う人気だと聞いた。
「銀ちゃん、シャンパンいれよう!ほら名前ちゃんも飲みたいでしょ?今日は名前ちゃんを楽しませるために来たんだから!」
三週間前に失恋の憂き目に合った名前にとっていい気分転換になると思って連れてきてくれたのか、二日連続銀時に会いにくる口実作りなのか分からない。シャンパンコールはしますか?とボーイに尋ねられた美紀はいいです、と断った。
「私の席に銀ちゃん以外のホストはいらないよ」
「美紀ちゃん……!」
「銀ちゃん……!」
帰ってもいいのかなコレ。すでにべろんべろんに酔っぱらっている美紀は名前の冷たい視線にも気づかずに銀時に抱きつき頬に接吻しだした。それに対して白い目を向けた名前は時計を確認した。明日は二限から講義がある。
「先輩。私、出席カードは出したいんですよ。それにそろそろ睡魔が限界で」
「えー。今日はオールしてそのままキャンパス行けばいいじゃない」
「眠いんですってば。先輩だけ残ってこの白髪天パとランデブーしててくださいよ」
「名前ちゃん実は俺のこと嫌いでしょ…」
銀さん泣いちゃう、と泣き真似をする銀時を美紀はよしよしと慰めた。胡散臭い疑似恋愛に鳥肌が立ちそうだ。帰りかたもわからない状態で名前にできることと言えば目の前の飲み物をちびちび飲むことだけだった。それも底をついた。それに気づいた銀時が何か頼む?と尋ねる前に名前がすぐ横を通ったスーツの男を引き留めた。
「あっ、すみませんペリエ1つください」
それを見た銀時がヤバいと顔を歪めた。
「あぁ?」
「いや、ペリエお願いします」
「俺に言ってんのか?」
「はい」
「……」
どうしてオーダーを受け付けてくれないのかと首をかしげる名前に銀時の冷や汗は止まらない。違う。名前ちゃん、それウエイター違う!
「おい、ペリエをご希望だ」
名前が声をかけた男とは別の男が炭酸水の入った瓶と空のグラスを持ち、男に差し出した。
「銀時ィ……邪魔するぜ」
「おいおい高杉ィ。ここのクラブは永久指名制だぜ?」
「この女、まだ初回だろ?」
高杉はペリエをグラスに注ぎ、名前の前に置いた。
「ありがとうございます」
名前は隣に座った高杉を見た。この人もホストだったのか。黒髪に白いシャツ、グレーのスーツ。印象的なのは眼帯のまかれた左目。
「高杉さん」
「あ?」
「私、ホストクラブ初めてなんですけど」
「知ってらァ」
「ここってどうやって帰ればいいんですか?」
ぴしっ高杉の額に青筋が入った。逆指名のような真似までして相手をしているのにこのありさま。お高い高杉のプライドがぱりぱりと割れていくのが見えた銀時は再び表情筋を引き攣らせた。夜が明けても帰りたくないと言わせる高杉の席で三分経たずに帰ります宣言とは何事か。盛り上がりを見せる周囲の喧騒とは正反対に冷め行くこのテーブル。銀時は、なんとか場を盛り上げようと頼みの綱である美紀をゆするが、彼女はうとうととしていて頼りになりそうにない。
「あー、俺が名前ちゃん送っていくからお前、美紀ちゃん見といて」
「……」
「名前ちゃん。銀さんがエレベーターで下まで送るからおいで。美紀ちゃんもちゃんと後で送るから大丈夫」
腰を上げた銀時は名前の手をとり、立たせた。置いていっていいものか心配そうに美紀を見る名前だったが、先輩の心配より自分の都合をとったらしい。手を差し伸べる銀時の手に自分の手を重ねようとした。お会計は…先輩が持ってくれるだろう。まさか後輩に奢らせることはあるまい。
「なっ」
「お前の客はこいつだろ?このお嬢さんは俺が送ってく」
そう言って高杉は立ち上がりかけた名前の腰を浚って連れて行った。な、何するんですかっ離れてくださいっ。と暴れる名前に盛大な舌打ちをする高杉の姿は異様に目立っていた。

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