05


見張りをしていた人たちが帰ってくるらしい。新顔の名前を見てみな驚いたような顔をしたが、特に問い詰められるようなこともなかった。入ってきたリヴァイに駆け寄り、彼が怪我をしていないことを確かめる。リヴァイの隣にはハンジがいた。ハンジは名前を見えるといきなり彼女を抱き寄せた。

「無事だったのか!!よかった!!!」
「ゾエ先生…苦しっ」
「リヴァイから少し、聞いているよ。あの時君の話をちゃんと聞いておけばよかった…」
「あの時…?」
「君が見たと言っていた化け物は屍と一致する。本当にごめん」

あれは夢じゃなかったのか。呆然とした名前を離すようにリヴァイは言った。アニとライナー、ユミルが菓子パンを持ってきていた。それを生徒会室にいる皆が手に取る。食事のようだ。
後から入ってきたコニーと見知らぬ女の人が手に持った袋から缶ジュースを取り出す。

「多分そろそろ掃討作戦が終わるはずだ。兵の数も減ってきている」
「屍は増えてるみたいだがな」
「死体が増えてきたからね。ウイルスって説が有力だけどそれは映画の見過ぎな気がするなあ。ウイルスやバクテリアで人間の体内構造はかわらないよ」

ハンジがメロンパンにかじりつきながら話し始めた。屍に対しての仮説を話し始めるハンジを止め、どうやって街を出るかという議論を始めた皆を尻目に名前は手の中のクロワッサンを見ていた。どうにも食欲がわかない。もしもあの朝から二週間経っているのならば、とっくに餓死していそうなものだが。

「あんた食べないの?」
「あまり食欲がなくて…」
「無くても食べな。体力がなきゃ足手まといになるだけだよ」
「はい…」

彼女は三年生なのだろう。胸に三本の矢のバッチがついている。アニに言われて名前はしぶしぶパッケージを開けた。口に含み、無言で咀嚼する。どうやらリヴァイとハンジがここの人たちをまとめているようだ。身長の大きい人が名前の隣に割りこむように腰掛け、彼女の首筋の匂いをかぐ。その気味の悪さに名前は慌ててアニにしがみついた。

「せ、先輩…誰ですかこの人…」
「ああ、ミケさんだよ。初対面の人の匂いを嗅いで…鼻で笑う癖がある。あたしもやられたよ」

冷静に返すアニに名前は落ち着きを取り戻した。フン、とミケは鼻で笑う。どうして笑われたのか分からない名前はリヴァイに向けて眉を下げて見せた。

「今日、明日で政府の様子を見よう」
「昨日、俺が見たのは三人だった」
「俺達は会いませんでした」
「私は二人」
「他にあった人は…いないみたいだね」
「五人か。やはり少なすぎるな」

皆の顔に安堵が浮かんだ。恐らく前はもっと多くの兵士がいたのだろう。校舎の至る所にあった弾痕を思い出す。政府が国民の命を見殺しにするなんて信じられなかった。街の地図を取り出し、赤いペンで丸い印を何箇所もつけていく。リヴァイ、ミケ、ハンジで作戦を練っているようだ。そこにアルミンが呼ばれ輪に加わる。

「心配すんな。もうすぐこの街から出られる」
「イェーガー先輩…感染ってなんですか?」
「あいつらに噛まれるとウイルスに侵食される。体に黴みたいなもんが生えてくるんだよ。で、理性もなにも失って襲ってくる」

エレンはその過程を見たことがあるのだろう。顔を盛大に歪ませた。想像したくもないが、勝手に想像してしまう。本当に食欲が失せた。二個入りのクロワッサンの一個だけを食べて袋をたたむ。膝を抱えた。心は不安定なのに涙は出てこない。エレンがうつむく名前の頭をおそるおそる撫でた。二人の元にジャンが来る。名前が顔を上げた。ジャンはマルコとよく一緒に居たため面識はあった。

「ミカサ、一応確認しろ」
「…え?」
「こいつが感染してないかまだ確認してねーんだろ。確認してくれ」

ジャンの言葉に生徒会室にいた人々の視線が名前に集中した。ジャンが彼女の腕を掴み上げ立たせようとする。こんな状況で苛ついてしまうのは仕方ないが、その瞳が怖くて名前は思わず後ずさってしまった。尻もちをつくような格好で倒れこむ。そんなジャンに名前は恐怖した。怖い。もしも感染していたらどうなるのだろう。殺される?少なくともここから離れることは確実だろう。依代がなくなってしまう。

「おいジャン!」
「ジャン、乱暴はやめて」
「…ああ、悪かった。だが、確認のできないうちは安心もできねェ。ミカサ、お前も十分わかっているだろう?」

ミカサがエレンを見る。名前を庇うように前に出ていたエレンだが、ジャンの言葉にしぶしぶ頷いた。コートを掻き合わせて怯える名前の肩をミカサがそっと抱いた。

「おい」
「リヴァイさん…」
「お前は大丈夫だ。上半身にも足にも感染は見られていない。俺は見た」
「……あっ」
「他の人間を安心させるためだ。アッカーマン達に証明してもらえ」

保健室でリヴァイとエレンに下着姿をさらけ出したことを思い出して名前は赤面した。リヴァイには足の消毒もしてもらっている。リヴァイが感染していないと断言した。ミカサの手に名前は自分の手を重ねた。ハンジも名前の元へとやってくる。

「すぐに終わるから」

名前は頷いた。ミカサとハンジと見知らぬ女性に連れ添われて部屋の外にでる。隣の教室に入り、名前はコートと上の制服を脱いだ。ハンジの視線が自分の体を這いまわるのが分かり、名前は顔を背けた。

「感染した場合、傷口を中心に腐敗が始まり、菌の繁殖が認められる…湿布を剥がしても大丈夫かな?」
「はい…」

ハンジに指示されて茶髪の女性が湿布をゆっくりはがした。湿布は打撲に貼ったはず。傷はない。部屋の全員が息を止め、傷がないことを確認すると安堵の息を吐き出した。

「怖かったわよね…もう大丈夫よ。私はペトラ。よろしくね」
「ペトラさん…」
「さあ、戻りましょう」

ペトラに付き添われて名前は生徒会室に戻った彼女の姿にエレンとアルミンは言い争う声を止めた。エレンはジャンの胸元を掴みあげた手を離す。

「感染のおそれ、無し」

ハンジの言葉に部屋の中の空気が動いた。ジャンが悪かった、と言い、名前は小さく頷いた。

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