06


名前は警備室をペトラ、オルオと一緒に担当することになった。防犯カメラの映像をチェックし、何か異変があったら電話で知らせるという仕事だ。今朝まで見張りについていた人たちは今、仮眠をとっている。

「目が疲れるけど頑張りましょうね。疲れたら言ってちょうだい」
「はい」
「監視カメラで見えないところは他の人が見張っているわ。気負わずにいきましょう」

キャスター付きの椅子に座り、モニターをずっと見続ける作業は辛くはないが退屈するものだった。まったく動きがないのだ。たまに写るのは見知った顔。オルオはおおきな口を開けて欠伸をしている。紙パックのジュースを啜り、昼食をとる。モニターを見ながら筋トレを始めた二人に、そういえばこの二人も警察官だったと思いだした。

「ペトラさんとオルオさんも警察官なんですよね」
「エルドとグンタも先輩よ。私達は少しの間だけだけどリヴァイさんの下で働いてたの。リヴァイさんって本当に凄いのよ。防衛大学を首席で卒業されて、エルヴィン警視監の推薦でSAT入り、二年で公安入りよ…憧れだわぁ…」
「え?公安?リヴァイさんマリア警察署で働いてるって」
「内緒にしてたんじゃない?公安って機密多いし。ミケさんも公安っぽいわ」
「これ聞いてよかったのかなあ…」

名前が苦笑いを浮かべた。昔なじみの近所のお兄さん…お兄さん?がまさかそんなに凄い人だったなんてしらなかった。公安といえば超一流のエリートだ。詳しいことはわからないがとにかく凄い人だとわかる。そんなエリートのリヴァイさんを上は救助したりしないのだろうか。

「俺とペトラはSATだ」
「優秀なんですね」
「当たり前だ。交番勤務から始まったが…俺の目標はリヴァイさんだ」

胸を張るオルオ。あの日、二人は昔世話になったマリア警察署の生活安全課に呼ばれてシガンシナ町を訪れていたらしい。不運だ。スクワットをするペトラの腹筋を見せてもらった。おお…と感嘆の声が漏れた。引き締まった身体は美しい。割れている腹筋をなぞるとくすぐったいのかペトラが笑った。

「じゃあ…掃討兵は…」
「……いや、あの人達も自分の正義の為に戦っているんだ」

オルオはモニターを見ながらそういった。人から人への感染が認められた。未知のウイルス。封じ込めは妥当な判断だろう。これは国の壊滅の危機でもあるのだ。リヴァイもペトラもオルオも上の意見を理解している。だが生き残るためには戦わなくてはならない。

「今夜、屍捕獲作戦が行われるらしいけど、生け捕りって骨が折れそうだわ」
「死体が残れば苦労しないんだがなあ」
「生け捕りするんですか?」
「ハンジ先生が調べたいことがあるって聞かないのよ」

屍の死体は直ぐに崩壊してしまうらしい。どうやって人を感知するのかという話題に写った二人は様々な仮説を立ててああでもないこうでもないと言いあっている。夜にしか活動しないから光に弱い?じゃあ昼間はどこにいるの?画面に映った人影にペトラが反応した。

「体育館裏に人影。オルオ、連絡を」
「了解。おい名前。何かあったらお前は全力で逃げろ」
「…はい」

カバンの中から銃器を取り出した二人に名前は怯えた。武器から目を逸らすように名前はモニターに集中した。何か違和感があったら小さなことでもオルオたちに伝えなくては。

「あ…」
「いま、指が見えたわね。まずいわ」

カメラの映像の上から指が一瞬見えた。オルオとペトラもそれを確認したのか顔色を変えた。画像が差し替えられている。そう気がつくのに時間はかからなかった。学校のセキュリティシステムはまだ生きている。無理に侵入すれば警報がなるだろう。

「名前。みんなを起こしてきて。緊急よ」
「まだ校舎の中には侵入してないだろうけど、念のためだ。持っていけ」

オルオに拳銃を渡された。使いかたがわからないと首を振る。舌打ちをされて泣きそうになった。わかるわけないじゃない。名前は今まで平和の中で行きてきたのだ。とにかく生徒会室に行くように言われ、名前は部屋から飛び出した。一階から四階までの階段を駆け上がる。腹の奥から圧迫されて苦しくなったが、必死で呼吸して足を動かした。生徒会室の見張りはサシャだ。名前を見て扉を開ける。中にいる人達はみな、もう起きていた。戦闘準備を始める彼らに呆気に取られた。

「名前、お前はここで大人しくしておけ」
「えっ?」
「外は俺達で片付ける。何があっても絶対に出るなよ」

リヴァイが息を荒げる名前に言った。ハンジは携帯で電話をしている。皆の表情が険しいことから一大事だとわかった。リヴァイと名前の横を通って部屋から出ていこうとするエレンの腕をとっさに掴んでしまった。

「イェーガー先輩も行くの…?」
「ああ。俺なら大丈夫だって。もう慣れた」
「そんな…」
「お前はちゃんと大人しくしておけよ」

拳銃をちらつかせながらエレンはそういった。足手まといだから置いて行かれるんだと名前は悟った。ペトラもオルオも彼女を戦闘に巻き込まないよう生徒会室に追いやったのだろう。彼らはもうずっと戦い続けている。リヴァイは彼女の手をエレンから外し、その手に生徒会室の鍵を握らせた。

「リヴァイ…警備室が」
「直ぐ行く」
「アルミン作戦は頼んだぞ」
「了解」

部屋に残ったのは名前とアルミンだけだった。アルミンは負傷をしているらしい。少し足を引きずりながら鍵を閉めた。

「ゾエ先生の読みは正しかった。軍は今日で終わりにするつもりらしい。今までの戦闘から生き残りが学校に集結してるってバレたんだろうね…一応万が一に備えて拳銃を渡しておくよ。使い方は教える」
「…この拳銃どうしたんですか」
「リヴァイさんとミケさんが警察署から持ってきたんだ」
「そうなんですか…」

窓の外から爆発音が聞こえてきた。名前は拳銃を持ったまま頭を抱える。建物ごと破壊するつもりだろうか。アルミンは冷静を保ってそんな彼女をみていた。怯えるのは仕方ない。アルミンの耳に差し込まれたイヤホンからはみんなの声が聞こえてきていた。スカイプのグループ通話を利用しているのだ。名前に拳銃の使い方を指導しながらカーテンの隙間に目をやる。

「…外はどうなっているんでしょう」
「今回は人数が多いみたいだね。戦力差が大きすぎるから僕達の攻撃は基本的に奇襲だ。今エレン達が監視カメラのチェックに行っている。カメラが復活すれば地の利もあって負けることはないよ」
「でも、相手はプロですよ…」
「リヴァイさんもペトラさんもオルオさんも一流だ。特にリヴァイさんは凄いよ。三十人相手に負けなかったんだから」
「三十人って冗談ですよね」
「僕も驚いたよ。ゾエ先生に人類最強なんて言われてた」

警備室が襲撃をうけているという一報を聞いてアルミンは表情を険しくした。

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