もっとあつく
あの日、私にキスをしたのは、船長だったんだ。あの唇の感触は、夢ではなかったんだ。
驚きと、羞恥心、そして胸の高鳴り。私は俯いたまま自分の鼓動を聞いていた。船長が、先ほどよりも私の近くに寄ってきたのが分かったけど、私は、動くことができなかった。
しかし、いきなり船長に顎を軽くつかまれて上を向かせられた。部屋の蛍光灯の明かりが私の目をくらませる。慌てて瞑った瞳をゆっくりと開けると、目の前に船長の整った顔があった。
「おれを避けていたのは、それが理由か」
「え……」
船長は鋭い視線で私を動けなくさせていた。物理的にも目を逸らせない状態で、私は泣きそうになりながら答えた。
「わ、私、夢だと思っていたんです。船長が、そんな、私にそんなことするはずなんてないから、だから、夢をみたんだって。船長のこと見ると、夢のこと思い出してしまって、そんな破廉恥な夢見たなんて、恥ずかしくて、申し訳なくて………」
船長は相変わらず私の顎をつかんだままだった。逃げたくて、顔を背けようとしたら、さらに強い力で引き寄せられて、鼻と鼻がくっついてしまうくらい、至近距離で抱きしめられた。
「夢じゃねぇよ」
慌てる私なんかお構いなしに、船長はそう一言呟いて、あの夜と同じように、私に口づけをした。
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