まるであらしのような


「どうして………」


口付けのあと、私の瞳からはぽろぽろと涙が零れ落ちた。思わず出た一言に、船長は我に返ったように驚いて、少し焦りながら私の頬に手を添えて涙を拭おうとした。


「泣くな。泣かせたかったわけじゃないんだ」
「だって、だって、船長が…」
「…悪かった。今のも、この間のも、忘れろ」


ぬぐってもぬぐっても流れ出る涙に、船長は困ったような顔をしていた。
忘れろ、だなんてそんな。船長はひどい意地悪だ。私のことをこんなにかき乱して、それでいて忘れてほしいだなんて。


「なんでそんな酷いこと言うんですか。船長にとっては意味がないキスだったかもしれないけど、私は…。私にとっては、初めてで、それで、でも期待しちゃって、どうしたらいいかわからなくて、それなのに」


感情が高ぶって言葉をうまく紡ぐことが出来なかった。船長は私を抱きしめて、それがまた私を混乱させた。この部屋に来てからの船長は、何を考えているのか、何をしたいのかさっぱり分からなかった。


「今、期待したって言ったか?」
「え?」


抱きしめられたまま、船長にそう聞かれた。
期待。自分の言葉を思い出す。そして、確かに私は船長のキスに本当は意味があってほしいと、そう期待していたことを思い出す。あれが気まぐれではなくて、ちゃんと私を思った上での出来事だったなら。そうだったらなんて幸せなんだろう。
しかし、そんな身の程知らずな期待をしていたことを船長にバレるのは死んでしまうくらい恥ずかしい。船長の問いかけにすぐ返すことが出来ず、すると船長は今度はまた違う質問をした。


「…嫌じゃなかったのか?」
「どういう…」
「おれにキスされたのは、嫌だったかどうかって聞いてるんだ」


船長は体を離して、そして私の顔を覗き込んでそう聞いた。
そんな聞き方するなんて、ずるい。船長は私の気持ちを知っているのか、知っていてこんなことを聞くのか、それとも本当に何も知らないのか。私はこれ以上何かを考えることが出来なくて、気が付いたら素直にその質問に答えていた。


「嫌じゃない」
「なまえ」
「嫌なはず、ないじゃないですか。船長の意地悪。私は船長が、大好きなのに…」


そう呟いて、私の瞳からはまたとめどなく涙があふれだした。もうどうにでもなってしまえ、と思った。

 
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