プラトニック | ナノ

幕が下りるまで


私は今リビングのテーブルの上に携帯電話を置いて、ドキドキしながらそれを見守っている。
今日はエース君が受験した第一志望校の合格発表の日。バイトも休んで、私は朝からこうしてずっと緊張しながら携帯が震えるのを待っていた。
まるで自分が受験生に戻ったような緊張感。自分にとって大切な人の人生の分岐点というのは、こうも心臓が高鳴るものなのか。
彼の努力を近くでずっと見てきた。どうか受かっていますように…。手を組んで目を瞑り、何度も祈る。きっと大丈夫。だって、エース君はすっごく真面目に、一生懸命に頑張っていたんだから。彼なら絶対に受かっている。大丈夫、大丈夫。
時計の針がかちりと動いた。待ちに待ったバイブ音。テーブルの上の携帯は光って、そして震えた。
画面に映るエース君の名前。私は深呼吸をして、通話ボタンを押した。


「もしもし」
「あ、ユイコさん?」
「うん、そうだよ」
「ユイコさん…俺………」


ぎゅっと目を瞑る。どうか、受かっていますように。電話の向こうで、外のいろんな音が聞こえる。エース君が、息をのむ声も。


「俺、受かってた。ユイコさん、俺、合格した……!」


携帯を持っている手が震えた。危うく落としそうになったところをこらえて、私は深くため息をついた。身体の緊張が一気に解けていく。


「ユイコさん?」
「……おめでとう、エース君」


うまく声が出せなかった。気が付くと涙が零れていて、私はそれを拭いながらおめでとうと彼に告げる。自分の事のように、いや自分が合格した時よりもずっとずっと嬉しかった。
当然の結果だと彼の努力を見てきた私はそう思うけど、だけど、やっぱり神様に感謝をしたくなる。


「私も今、すっごく嬉しい」
「一番にユイコさんに知らせたくて、合格って分かった瞬間、無意識のうちに電話かけてて、それで、俺……」
「うん、おめでとう。すごいよ、エース君、本当にうれしい」


同じ言葉ばっかり繰り返してしまうほど、私は興奮していた。幾らか落ちついた後で、先程とは違ってちょっと緊張したように、エース君は電話の向こうで言葉を紡いだ。


「今日の夜、会えますか?俺、ユイコさんに伝えたいことがあるんです」


かしこまった彼の言葉に、苦しくなるくらいに心臓が脈を打った。恋をしている人だけが感じる鼓動。私は「うん」と頷いた。


「いつも待ち合わせしてるところで、いいっすか」
「うん、待ってるね」


彼と初めて話した去年のことを思い出す。図書館でお守りを落としてしまったエース君に、声をかけて届けてあげた。あの瞬間から、全てが始まったのだ。
あの時、もし私が面倒臭がってあのお守りを拾わなかったら。他の誰かが拾っていたら。あの場所で彼に追いつけなかったら、声をかけられなかったら。きっと今の私はない。今の二人は、いない。
電話を切って、私は深く息を吐いた。

運命って不思議。いつどこで、その分岐点が現れるのだろうか。もしかしたら、今この瞬間も、未来の私にとって重要な瞬間なのかもしれない。一つ一つの行動が、私のこれからを作っていく。二人のこれからを作っていく。
今エース君は一体どんな顔をしているんだろう。そんなことを想像したら自然と頬がほころんで、そのことがまた私自身を嬉しくさせた。


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