プラトニック | ナノ

恋という花


エース君は、私よりも先に待ち合わせ場所に来ていた。そわそわと私を待つ姿に、胸がキュンと締め付けられる。


「ユイコさん!」


駆け寄ってくるエース君の笑顔につられて私の頬も緩んでしまう。彼の手には私がプレゼントした手袋がつけられていた。私の視線に気付いたのか、「これ、すげェ気に入ってんだ。毎日つけてる」とはにかみながら手袋を見せてくるエース君に、愛おしさが溢れてくる。
「合格おめでとう。お疲れ様」と私はいつものように彼の頭を撫でた。少し照れたように「ユイコさんのおかげっす」と返される。


「エース君が努力した結果だよ。私はその後押しをしただけ」
「でも、ユイコさんがいなかったら、ここまで頑張れなかったから。本当に、ありがとうございます」


なんとなく街を歩いていたが、もう時刻は夜で人通りも疎らだった。エース君は一体どこへ向かおうとしているんだろう。尋ねようとしたときに、目に入ってきた駐輪場。ここは…。


「ここで、ユイコさんと話したこと、覚えてます?」
「もちろん。お守り、拾って届けたよね」
「あの時も、ありがとうございます」
「ふふ、今日はたくさんお礼を言う日だね」
「…あの日だけじゃない」


エース君は立ち止まり、私の目をじっと見つめる。そして私の手を取ってぎゅっと握りしめた。私の手にも、エース君からもらった手袋がついている。不思議と寒くなかった。エース君の顔が赤いのは、寒さのせいではないとわかった。


「俺のこと優しいって、そう言って抱きしめてくれたのもここだったって、知ってました?」
「え?」
「かっこ悪ィところ見せて、危ない目にも合わせたのに、ユイコさんは俺を抱きしめてくれた。…すげェ、嬉しかったんだ。俺みたいな奴でも、誰かを好きになって良いんだって。誰かに好かれても良いんだって、そう思えたから」


あの日のこと、もちろん覚えている。あの時、私は彼を抱きしめて、私の想いが伝わればいいと願った。初めて話した場所と、初めて気持ちが伝わった場所が同じだなんて。
他人から見たら、ただの偶然かもしれない。だけど私はその偶然が運命のように思えて、気が付いたら涙がこぼれていた。突然泣き出した私を見て、エース君は慌てたように私の肩を掴んだ。


「ご、ごめん、なんか嫌なこと言っちまったか?」
「ちが、なんか、感動しちゃって…」
「へ?」
「まるで、運命みたいだな、って思って。そしたら涙が…」


エース君は手袋を外して、温かい指先で涙を拭ってくれた。ほっとした様子のエース君は、それから顔をひきしめて、深呼吸をした。私も彼に負けないくらい緊張をしている。心臓が苦しいくらい脈を打つ。


「俺、ユイコさんが好きです。ほんとは、初めて話す前からユイコさんのこと、気になってた。よく図書館で見かけて、綺麗で優しそうな人だなって…。お守り拾ってくれた時、緊張しすぎて多分愛想悪かったっすよね?でもその後、仲良くなって、勉強教えてもらえるようになって、見た目通り優しい人だなって思って。ユイコさんに会う度、ユイコさんのこと、どんどん好きになってた」


エース君の心音が、聞こえてくるみたい。出会った時から今までの記憶が鮮やかによみがえる。不器用で、まっすぐで、太陽のように明るく笑うエース君に、いつの間にか心を惹かれていた。私が彼を意識しはじめたのは、いつだったんだろう。気が付いた時には、もう既に、私も彼のことを好きになっていた。


「俺、誰かを好きになるの初めてで、どうしたらいいかなんて全然わかんねぇけど…。ユイコさんのことが、すげェ好きなんです。ユイコさんの、彼氏になりたい。俺がユイコさんに助けてもらったみたいに、もしいつかユイコさんに何かあった時、俺がユイコさんを支えられる存在になりたい」


一生懸命に、言葉だけじゃなくて全身で好きと伝えるエース君に、私はまた泣きそうになった。こんなに優しくて素敵な男の子が、私のことを好きになってくれるだなんて。嬉しくてたまらなくて、私は真っ赤になった彼の背中に腕をまわした。


「…自分の気持ちが、分からなかったの。多分、最初は弟と重ねてた部分があったと思う。だけどね、いつからか分からないけど、エース君と一緒にいると、とても暖かい気持ちになるって気付いたの。エース君ともっと一緒にいたい。エース君の笑顔をもっと見たい、って……」
「ユイコさん…」
「好きだよ。遅くなってごめんね。私でよければ、エース君の彼女にしてください」


少し体を離して、エース君の瞳を見つめて私はそう伝えた。大きく頷いて抱きしめ返してくれたエース君に、私は自然と笑顔になる。嬉しくて、幸せで、そして彼も同じように感じていることが奇跡のように思えた。


「どうしよう。俺、嬉しすぎて死んじまうかも」
「私もだよ、エース君」
「絶対大切にする。俺、ユイコさんのこと、世界で一番幸せにするから」


私達は照れたように笑い合い、お互いに手をぎゅっと握りあった。もう十分、今だって世界で一番ってくらい幸せなのに、エース君は私にこれ以上の幸せをくれるというのだろうか。私も、同じだけの幸せを、愛を、彼に与えたい。そう強く思いながら、ゆっくりと歩き出した。

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