プラトニック | ナノ

見つめ続けて


「どうぞ」
「おじゃまします…」


私は家に入るとすぐに暖房を付けて、それからお湯を沸かした。とりあえず、何か暖かいものを入れよう。ご飯を作るのは、それからだ。
エース君のコートをハンガーにかけてあげ、いつもの場所に座らせた。


「うちにあるもので、適当にご飯作るから、ちょっと待っててね」
「え、いいっすよ。わざわざ作ってもらわなくても…」
「気にしないで、いつも自炊してるし。プチクリスマスパーティだと思ってくれたらいいよ」


前に話したときはクリスマスに遊んだりはしないと言ったけど、今日は状況が状況だし、まあいいかと自分に言い訳をする。冷蔵庫の中身を確認すると、ちょうど昨日買い出しに行ったばかりで食材はある程度揃っていた。行っておいてよかったなと思いながら、料理に取り掛かった。
数十分して、私は出来上がったご飯をエース君のもとへと運ぶ。私が料理をしている間、エース君は真面目に勉強をしていたようだった。いつも見慣れたその姿も、なんだか今日は無性に可愛いなぁと感じてしまう。


「美味しい?」
「すげぇ美味い!ユイコさん、料理上手いっすね」
「えへへ、美味しいって言ってもらえてよかった」


二人で食事をするこの時間を、とても幸せだと感じた。エース君もそう思ってくれたらいいな、なんて考えていると丁度視線があって、なんだか以心伝心したみたいで、嬉しかった。
食べ終わって食器を片づけていると、エース君が「あの」と声掛けたので私は振りかえった。


「何?」
「…プレゼント、クリスマスだから、実は買ってて……。もらってくれるか?」


彼は頬を赤らめながら鞄の中から紙袋を取りだした。私は頷き、急いで食器を流しに置いて、彼の前に座って包みをもらった。


「中、見ても良い?」
「あぁ。気に入るか、分からないっすけど…」


包装紙を開くと中に入っていたのは、暖かそうな白い手袋だった。


「可愛い…。これ、エース君が選んでくれたの?」
「ユイコさん、いつも手寒そうにしてたから。手袋だったら、喜ぶかなって」
「嬉しい!ありがとう、手袋、買おうか悩んでたの。色も形も、すごい好き。ありがとう、エース君」


彼が私のことを考えて選んでくれたということが、何よりも嬉しかった。お礼を言うと、エース君は真っ赤になって俯いてしまった。そんな彼を可愛く思っていると、自分も彼にプレゼントを買った事を思い出す。私は「ちょっと待ってね」と声をかけると、自分の鞄の中からプレゼントの包みを出して渡した。


「これ、俺に?」
「うん。クリスマスプレゼントに、どうぞ」


その場で包みを開いたエース君は、入っていた手袋を見て笑みを浮かべた。


「私達、一緒のもの買ってたんだね」
「俺も、ユイコさんの買う時に自分のも買おうか悩んでたから、すげぇ嬉しい」


早速手につけて喜ぶ姿に、私の心も温まる。口には出さなかったけど、なんだか運命みたい、って。そんなバカバカしい事を思ってみたりした。…口に出したとしても、エース君はバカバカしいなんて、言わないだろうけど。


「俺、さっきも言ったけど」
「うん?」
「ゆいこさんを好きになって、本当に、良かった」
「エース君……」」


頬を染めて、だけどちゃんと目を見てそう言ったエース君から、視線を逸らすことなんてできなかった。もらった手袋を握り締めて、私はごくりと唾を呑んだ。


「受験、受かったら。ユイコさんにちゃんと告白します。だから、それまで他の奴なんか見ないで、待っててほしい」


こんなの、ずるい。私はエース君と同じくらい顔を真っ赤にしながら思った。こんなの、告白と変わらないじゃないか。こんなこと言われたら、待つしかないじゃないか。第一、私はもうずっと前から、エース君しか見えていないというのに。
私は今すぐにでも彼に抱き着きたい衝動を抑えて、うん、と小さく、だけどしっかりと頷いた。


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