プラトニック | ナノ

あなたを感じて





エース君を抱きしめたまま数分たった。
小雨はいつしか雪になっていて、私達の肩や髪の毛に静かに降り積もっていく。地面についている膝が凍えて痛み出していたけれど、私はこの体勢を崩さなかった。
私達は何も話さないまましばらくそうしていたけど、やがてエース君が口を開いた。


「ユイコさん」
「うん」
「俺、ユイコさんを好きになって、良かった」


突然の「好き」に、私は頬が熱くなるのを感じた。それでも、抱きしめた腕はゆるめなかった。エース君は言葉を続ける。


「どうしようもねェ俺を優しいって言ってくれるユイコさんに出会えて、本当によかった」


ゆっくりとやや躊躇いがちに、私の背中にエース君の腕がまわるのを感じた。
届いたんだ。私の温度が、想いが、エース君にちゃんと伝わったのだ。嬉しくて私は頬をほころばせた。
それからまた幾らか時間が経って、膝や指先が冷たくて感覚が無くなってきたところで、エース君が口を開いた。


「…寒くないっすか?」
「寒い…かな?エース君は?」
「俺も、よくわかんねェ」


私達はようやく身体を離し顔を見合わせて、少し笑った。
立ち上がって時計を確認すると、待ち合わせていた時刻から一時間以上経っていることに気付く。。ふとエース君を見上げると、頭や肩に雪が薄く積っていた。私は手を伸ばしてその雪をはらってあげると、逆にエース君も私の上に積もっていた雪をはらってくれた。
どちらともなく歩き始めて、私はエース君を見上げて聞いた。


「時間、大丈夫?予備校とか…」
「今日は授業取ってないから。ユイコさんは?」
「私は全然問題ないよ。…とりあえず、何処か入ろうか。身体、冷え切っちゃってるし」


立ち止まっていた路地を抜けて気付いたのだが、ここから私の家はとても近い。どうやら、無意識に自分の家の方へと走ってきてしまったらしい。駅までは、歩いて少し時間がかかる。
さっきエース君にちょっかいを出していた男の子たちがまだ近くにいる可能性もあるし、と結局そのまま自宅へと向かうことにした。隣を歩くエース君は私の家に向かっていると気付いたようで、私を一度ちらりと見た後に少しだけ頬を赤く染めた。


 

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