エースとの行為は、どちらかというと粗雑で、彼の自分本位な動きがほとんどだった。それでも、別に良かった。気にならなかった。私だってそんなに経験があるわけでもなく、そのことをマルコに相談した時も若いうちはそんなもんだと言われて、言葉通りに受け取って納得していた。

だからあの夜マルコに抱かれたとき、あんなに丁寧に、優しく大切に触られて、私はこんな交わり方があるものなのかと衝撃を受けた。あの夜の行為は私が今までした中で一番丁寧で気持ちよくて、そして悲しかった。
あれは私を慰めるだけのための行為だった。マルコは決してあの時、自分の気持ちを表そうとしなかった。


だけど今夜は、口付けすらも荒々しい。息継ぐ暇もなく両腕を抑えられてからだを貪られる。自分が望んだことではあったが、あの夜とあまりにも違い過ぎるマルコに、私は驚きそして恥ずかしくも興奮していた。
求められている。そのことがひどく私を安心させた。
マルコの気持ちが痛いほど伝わってきた。大きな波のようにそれは私を包んで、気が付いたら私は気を失っていた。


目を覚ますと、ベッドには私一人だけだった。乱れたシーツとベタつく体が昨晩の情事を思い出させる。
マルコは、私を抱いてくれた。
シーツをぎゅっと抱きしめる。冷たいそれはマルコが大分前に部屋を出て行ったということを教えてくれた。
ゆっくりと起き上がり少し痛む腰をさすりながらシャワーを浴びる。着替えをして、家をそっと出た。
まだ夜明け前だった。マルコは何処に行ったのだろうか。
…見当は、ついていた。

私は昨日自分がマルコに見つけてもらった二人の墓がある場所へと向かった。案の定、そこにマルコはいた。

「マルコ」
「…起きたのかよい」

声をかけたがマルコは振り返らなかった。私は彼の隣に立った。マルコからはピリピリとした空気を感じ、怒っているような気がした。

「満足か?」
「…え?」
「おれがお前のことをどう思ってるか、知ってて誘ったんだろ。お望み通り抱かれて、満足したのかよい」

マルコは薄ら笑いを浮かべながらそう言った。思わずカッとなり、私はマルコの頬を打った。強い力でも素早い動きでもなかったから、マルコは十分に避けられたはずだった。
だけど彼は私の平手をかわさずに、パンッと渇いた音が辺りに響いた。
反射的にぶってしまったことを私はすぐに後悔した。そしてその後悔を、マルコも感じ取ったようだった。
こみあげてくる涙を拭うことすら出来なかった。肩で息をしながら、私はマルコに訴える。

「違う!私は誰かの代わりなんて求めてない。マルコと一緒に生きていきたいんだよ」

マルコはゆっくりと私に視線を戻した。

「……お前が苦しいなら、支えてやりたいし、受け入れてやるのも簡単だよい。だが、そんな惨めな男に、誰が好き好んで成り下がるんだ」
「私がマルコを思う気持ちは、信じてくれないんだね」

「信じた先に何がある。おれは、エースも親父も、救えなかった。目の前で、みすみす死なせて、仇討ちすら出来なかった」


絞り出すようにマルコはそう言った。
あの戦争が、よみがえる。
悔しさは一生消えない。癒えない傷を抱えたまま、私達は生きていくのだろうか。


「二人を救えなかったのは、私だって同じ。マルコだけじゃない。みんな苦しくて、悔しくて、もがいてる」


私はマルコに縋りついた。抱きつかれたまま、マルコは私に腕を回すことはしなかったが。しかし体を離そうともしなかった。

「おれはもう、何も失いたくない。お前を失うのが……怖い」

多分、マルコも泣いていただろう。こんな風に弱音を吐く姿を初めて見た。
私は抱きしめる力を強くする。強く強く抱いて、体温を感じ合えるように。

「私は誰にも奪われないよ。マルコ、こっちを見て」


目の前にいる人を見ていないのは、私じゃなくて、マルコの方だよ。

そう言うと、マルコはようやく私を弱弱しく抱き返してくれた。

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