二人で手を繋いで家へと帰った。マルコは私の歩幅に合わせてゆっくりと歩いてくれた。

「私、マルコの気持ちを利用したわけじゃないよ」
「あぁ。わかってるよい」

マルコはそう答えて、私の手をさらにぎゅっと握ってくれた。
私は救われたかったし、マルコのことも救いたかった。その気持ちに偽りは無かった。
もう誰も傷つかないでほしい。誰も失いたくない。それは私だけでなく、マルコも同じだった。
傷付けてごめん、と言うとマルコは何も言わずに首を振って答えた。

家に着いて昨夜の情事がありありと残る寝室のベッドを見て、私たちは顔を見合わせて苦笑した。今更恥ずかしさが込み上げてくる。マルコの腕、厚い胸板、吐息。思い出すと、また昨夜の熱がぶり返しそうだった。
二人で部屋を片付けていく。ここはもう海の上ではない。仲間もいない。だけどマルコがいる。それだけで充分だと思えた。
あの冒険の日々が恋しくないわけではない。だけど、それでも、今私の目の前にある世界を大切にしなければいけないのだ。

その夜、寝る間際にマルコが私の部屋を訪れた。マルコから夜にこの部屋へやってくるのは初めてだったかもしれない。普段自分はマルコの部屋に躊躇いなく入っていく癖に、いざマルコが自分の部屋に来るとなると、急に緊張して心臓が高鳴っていった。

「一緒に寝ても良いか?」
「…駄目なんて言うと思ったの?」

少し遠慮がちにマルコはそう尋ねる。私はベッドを開けてマルコを招き入れた。
マルコはほっとしたように笑った。胸が苦しくなる。隣に来たマルコの肩にわたしはもたれかかった。

「私は、エースを好きだった過去は否定しないし、だけど今のこの気持ちは本物で、マルコのことをちゃんと想ってるんだよ」
「わかってる。おれはお前をずっと見てきたんだよい。お前の過去も丸ごと含めて、愛してる」

マルコはそう言って優しく肩を抱いた。髪の毛に柔らかいキスを落とされる。私はそっと目を瞑った。

「愛される覚悟が足りなかったのは、おれの方だったんだなぁ」

そう自嘲気味に呟いていたが、言葉は悲しい響きを持っていなかった。静かな夜に、二人の鼓動が響く。
随分と久しぶりに訪れた幸福な時間だったと思う。一生このままでいたい、そう本気で思う夜だった。



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