06
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「先輩、なーんかいいことでもあったんですかー?」
「…はぁ?」
「顔がだらしないです、全体的にしまりがない」
「なんだと、イリーナてめえ、それが先輩に対する態度か?あ?」
スーツの首根っこを掴んでやれば、苦しいですとすぐ音をあげたイリーナにふんと鼻を鳴らす。わかりゃいいんだ。しかもなんだよ、顔がだらしねえだの締まりがねえだの散々言いやがって。いつも通りだろ、これが。
「イリーナが言いたいことはわからないでもないな」
「ですよね!?」
「だから…何がだよ、ルードまで訳わかんねえこと言いやがって」
喧嘩でも売ってんのか、こいつらは。きつく睨み付けてやるとふたり揃って態とらしく肩を竦める仕草に腹が立つ。
「どうせあの先生のことでも考えてたんだろう」
「え!?なになに、先生って誰ですか!?」
「っそんなんじゃねーよ、いいから仕事しろよ仕事!」
あー、これじゃ肯定してるも同然じゃねえか。サングラスを指で押し上げながら口角を上げたルードと、ぎゃあぎゃあ騒いでるイリーナから顔を逸らしつつブラックコーヒーを一気に流し込んだ。
最初は妹のように思ってたはずなんだけどな。ナマエちゃんの一挙手一投足が可愛くて仕方ねえなんて、とうとう俺も平和ボケしちまったか。ダルい仕事の合間に入ってくる孤児院の内偵調査任務が楽しみだなんて、ぜってえこいつらにはバレたくねえ。
「恋、ですかぁ〜」
「恋だな」
「……」
反応するのも面倒になって持っていたロッドをイリーナにぶん投げたら、小さく悲鳴を上げて大人しくなった。
そういうんじゃねえよ。ただ、俺にはナマエちゃんが眩しすぎるだけだ。汚れた手で簡単に触れていい存在じゃないだろ。なんて、こんなこと考えてること自体、俺らしくもねーな。安心しろよ、あの子とどうこうなりたいなんて考えてもいねえから。
俺は、腐ってもタークスだ。
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