07
「ナマエ先生ー!」

夕方、机で事務処理をしていたら、後ろから元気な声が聞こえてきて振り向く。ピンクのリボンと三つ編みを揺らして走ってきたのはマリンちゃんだった。

「マリンちゃん!あれ、今日はひとり?」
「うん、今日はナマエ先生にティファからの伝言を伝えに来ただけだから!」
「ティファさんから?」
「今日の夜、時間あったらセブンスヘブンに来てって言ってたよ」
「夜?うん、行けるよ」
「ほんと?やったぁ!ティファにもそう言っておくね!」

本当にそれだけの用だったみたいで、嬉しそうに笑ってマリンちゃんはまた走って出ていってしまった。でも、何だろう?何かあるのかな、なんて思いつつ、まだ残っている手元の報告書に目を落として、早く終わらせようと手を動かした。


それから報告書が片付いたのはもう日も暮れた夜だった。交代の先生に引き継ぎをして、院長先生にご挨拶をしてマロンズハウスを出る。マリンちゃんから何時とは言われていないけれど、遅くなったらご迷惑だろうし早く行かなくちゃ。
セブンスヘブンに着いたら、中からは賑やかな声が外まで聞こえていて、他にたくさんのお客さんがいることがわかる。とりあえず扉に手をかけて、ちょっとドキドキしながらそれを開けて。

「…こ、こんばんはー」
「あっ、ナマエ先生ー!」
「いらっしゃいませ、ナマエさん!」

すぐに私に気付いてくれたのはマリンちゃんとティファさんで、招かれるままにカウンター席に案内される。そこまで広くない店内だけど、私の他に3人のお客さんがいて、見た感じみんな知り合いなのかすごく仲が良さそう。

「いきなり呼んでしまって、ごめんなさい。お食事をご馳走するって言って出来てなかったので、今日は友人たちで貸し切りだし丁度いいかなって…。ご迷惑じゃなかったです?」
「いえいえ、全然!むしろせっかくのご友人とのお時間、私がいても大丈夫ですか?」
「もちろん、ナマエさんにも紹介したかったんです」

にっこりと微笑んでそう言ったティファさんに少し照れながら、もう一度ぐるりと店内を見渡す。物凄く身体が大きくてサングラスをかけた怖そうな人と、少し年下に見えるショートカットの可愛らしい女の人と、赤いマントで長髪の人…。すごく個性的な人たちだなぁ。しかも、多分みなさん相当出来上がっていらっしゃるご様子で。

「うるさくてごめんなさいね…」
「いえ、みなさん仲良しで羨ましいです」

それからティファさんがお手製のオムライスを出してくれて、それがとっても美味しくて幸せな気持ちになりながら、次々と隣に来てくれるご友人の紹介を微笑ましく聞いた。
まず、マリンちゃんのお父さんのバレットさん。声が大きくて見た目は怖いけど、陽気で正義感に溢れる素敵なお父さん。
それから、ユフィちゃん。ウータイ出身らしくて、とにかく元気ですごく明るい人。ティファさん曰く、手癖が悪いらしい。
そして最後に隣に来てくれたのは、ヴィンセントさん。年齢不詳とか、ずっと寝ていたとかよく分からない紹介を聞きながら、一番気になってたことを口に出す。

「顔、すごく赤いですけど大丈夫ですか…?」
「…ああ、心配いらない」

茹でダコのように赤いけれど、一体この人はどれほどお酒を飲んだんだろう…。答えもちょっと舌っ足らずだし、相当酔っていらっしゃいますね…?

「…おまえ、綺麗だな」
「っはい!?」
「ヴィンセント、酔ってる?」

じっと瞳を見つめられて言われた言葉に一瞬思考が追い付かなくて、理解したと同時に変な声が出た。ティファさんも訝しげな表情でヴィンセントさんを見てる。

「酔ってなどいない。ルクレツィアの次に綺麗だ」
「ルク…?」
「ヴィンセント、そこまでにしておけ。ナマエが困ってる」

突然後ろから聞こえてきた声に振り向いたら、呆れた表情のクラウドさんが立っていた。そういえばクラウドさん、今までいなかったな。

「おかえり、クラウド」
「ああ、ただいま」
「クラウドさん、お仕事帰りですか?」

私の問いに頷いて、自然に私の隣、ヴィンセントさんとは逆の席に座るクラウドさん。ティファさんが手早く作ったウィスキーのロックを煽る姿は、見蕩れるほど格好良い。

「クラウド、私はナマエと話しているんだ。邪魔をするな」
「ちょ、ちょっとヴィンセントさん…?」
「……はぁ。ナマエ、無視でいい」
「えぇ、そういうわけには…」

未だに赤い顔でよく分からないことを言うヴィンセントさんと、それに溜息をつくクラウドさんに挟まれて何だか居心地が悪い。そんな気まずさを押し込むように、目の前に置かれた綺麗な色のカクテルをとりあえずゴクゴク流し込んだ。あ、美味しい。

「ティファさん、これ美味しいです!」
「ふふ、良かったです。でも結構お酒強いから、飲み過ぎると…」
「大丈夫です、そこまでお酒弱くないですから」

普段からそんなにお酒は飲まないけれど、無茶な飲み方をする歳でもないし、帰れなくなるような失態を犯したこともない。それに明日は非番だし、ご飯もお酒も美味しくて、こうやって誰かとわいわい過ごすことなんて早々ないから楽しくなってきちゃった。
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